舞われまわれ | ナノ







この連鎖を断ち切るにはどうしたらいいんだろう。
「あのね、何度も言うけど私たいした人間じゃ無いから。」
「マキナがたいしたことないなら俺はどうなるんだろう・・・。」
わぁぁぁぁぁぁ・・・。
さっきからこの調子だ。
折角、折角臭い話までして、いけるかと思ったんだけど。

「マキナはどうして、人が殺せるんだ?」
「っ。」
「俺もマキナみたいになれたらな。」
「なれるわけないよ。」
自分でも驚くくらい自然に言葉が出た。
慌てて口を塞いだけど遅かった。
「…そうだよな。」
「違う!」

そうじゃなくて、そんなつもりで言ったんじゃない。

「いいんだ、うん。俺が不甲斐ないんだ…。」
違うよ、ペッシは良い子なだけなんだよ!って言っても今は曲解して受け取られるだろう。
そんなつもりで言ったんじゃなくて、私は特殊な例だと自分でも思うから、だからペッシには私みたいになってほしくなくて。
思うは簡単だけど伝えるとなると難しい。

「今のは、言葉が悪かったわ。ごめんなさい。」
「そんなことはないよ。はっきり言ってくれてありが、とう…。」
「私みたいになれないっていうのは、つまり、私みたいにならないで欲しくて言ったんだよ。」
「…そう。」
どんよりムードが先ほどより強くなる。
しょうがない、まさかペッシにこれを話すことになるとは。
まさかの展開であるが、でも今はそれが一番いい気がする。
「私は、その、人間扱いされてこなかった、から。」

自分で言っても、これダメージ大きいな。

「…?」
「私はね、殺すのがずっとお仕事だった。パッショーネに入る前の話なんだけどね。」
「入る前…って、今十代だろ?それじゃあ…。」
やんわり微笑んでおこう。
お察しくださいという奴である。

「最初は嫌で嫌で、でも殺さなきゃ私が殺されるから、それに殺してあげるほうが相手にとっては救いな様な環境だったからなんだかんだいって殺してた。」

実際私が手を下さなくても陰惨な死に方をするんだから嘘じゃ無い。
でもその前に私が使えないって殴られるのは必然なのでやっぱりわが身可愛さに殺してたんだろう。

「それで殺した後何度も何度もごめんなさいごめんなさいって謝り続けた。心の中でだけど。」
後悔してしてしまくって。
「もうしたくない、私も本当は殺したくなかったの、ごめんなさい。って。」
必死に自己を正当化。
「殺して殺して殺して、私は生かされてきた。地獄みたいな環境でしょ。」

笑っちゃうくらい、狂った世界だった。

「でも結局私はその場から逃げることは出来なかった。いや、しなかったんだね。そこを出て何処で生きていけばいいのかわからなかったから。」

その時点で自分もあちら側の人間だったんだと今の私は認めざるを得ない。

「そして謝り続けた。ああ、またなんてことをしてしまったんだ。ごめんなさい。…それで、そのうちね。謝り疲れちゃってね。後悔しても反省しないなら、意味ないじゃんって思うようになったの。」

後ろを振り返っても、世界は変わらなかった。

「どんなに、思ってもそれを変える気が無いなら反省も意味もないじゃ無い。」

反省しても、それを生かす気が無くちゃ意味が無い。

「そう思ったら、すっと心が楽になったの。多分結局は私は悪くないって思いたいがために謝ってたのね。もちろんこれは私の場合。それから殺すことに罪悪感はあるけど、躊躇いはなくなった。見てて辛くなることはあったけど、それでも仕事はこなせたの。」

ペッシの表情は、俯いてしまって窺うことは出来ない。
私自身、今自分が一体どんな顔をしているのか想像がつかないのでありがたい。

「今でも無理に苦しめて殺すのはいやだし、殺人自体が楽しいわけじゃ無い。」

これははっきりいえる。

「だから、命を軽んじるつもりはない。道楽では人を殺さない。これが私のボーダーライン。これを超えたら私は人じゃなくなると思ってる。そこで私は折り合いをつけてるの自分の心に。人をそんな風に殺していないうちはまだ私は人間だって。それでも殺すよ。殺さなきゃ殺される世界ってことはパッショーネだって変わらない。」

こう思えるのもブチャラティがいるからだろう。
彼の役に立ちたいって思うからこそ、暗殺チームへの配属が決まったときこの妥協点を見つけることが出来た。

「と、まぁそんなお仕事してるときは私、扱いが人間じゃなくてさ。本能に従って多分もあるから、参考にすることはお勧めできませんよ、って。だから、私みたいにはならないでってこういう意味って伝わったかな。私も自分が何言いたいのか良く分からないや。」

駄目じゃんね、って笑ってペッシに話しかけるとやっと彼は顔を上げた。

「ごめん、俺、勝手に卑屈になって…でも、やっぱり…その。」
「私こそ、こんな話してごめんね。それでね。」


「ペッシはどうする?ここにあなたの答えはないよ。」

人を殺すのって、人にはとっても大変だと思うの。