舞われまわれ | ナノ
「疲れたー。」 この何週間か、たびたびペッシと手合わせをしている。 ペッシは基礎練と筋トレを頑張ってただけあって土台はしっかりしている。 それに加えてどんどん私から技を飲み込んでいくもんだから、今日は何度かヒヤッとした場面もあった。 まだ、ペッシには負けたくないんだけど…私も頑張らねば!
「マキナ、また手合わせ?」 「うん。ヘトヘトだよ。」 リビングでへばっているとメローネが隣に座ってきた。
「あんまりムキムキにならないで欲しいなー。」 「だー、暑いんだからひっつかないでよー…。」 「汗ばんだ肌ってエロいよな。」 「天誅ーッ!!!!」 直後、メローネの頭の上に氷の塊が直撃した。 欠片を拾い上げ頬に当てると、冷たくて気持ち良い。 秋が来たとはいえやはり体を動かせばそれなりに暑いのだ。 「ギアッチョありがとー。」 「それは氷に対してだろ。」 地面で悶絶しているメローネを足蹴にしながらギアッチョは私の隣に座った。 「ギアッチョ、踏むなら俺としてはハイヒールとかさー」 「死ねッ!」 「ぐはっ!」
二人は本当に仲がいいなぁ。 キッチンのほうでは今日の当番のペッシが頑張ってご飯を作っている。 手合わせの後なのに、ご苦労なことだ。 不器用で危なっかしい手元に監督役のプロシュートの指導が入る。 今日のご飯はなんだろうなぁ。
「なんか、いいね。こういうの。」 この空気感がとても心地良い。 「こういうのがこれからも続いていくんだね。」 10人もいるこのチームは、組織でも大所帯な方だ。 おそらくもう新規メンバーは入ってこないだろう。
「いや、そんなのわかんないぜ?」 頭をさすりながら起き上がったメローネは、笑顔で私の言葉を否定した。 「だって、いつ死ぬかわかんないだろ。俺たちなんか。」 「あ、…うん。」 そうだった、私達は暗殺チームだった。 「そうだね…。」 「ま、このメンバーは長続きしてるよな。」 「やっぱスタンドのおかげだろ?じゃなきゃ毎週メンバー総入れ替えだろうな。」 メローネの意見にギアッチョもなんてことのないように賛同した。 「ま、ギアッチョはまさに鉄砲玉って感じするしなー。」 「あ?喧嘩売ってんのか?」 「…そんな言い方。」 嫌だな。 職業柄無理なことかもしれないが、皆には長生きして欲しい。
「あー…でも、まぁ、なんだ。続くといいな。」 「ギアッチョ…うん!」 「やだ、ギアッチョったらやさしーってジョークだって!そろそろ脳震盪起こすから!」 ギアッチョの鉄拳が眼前をかすめメローネのほうへ飛ぶ。 メローネはというとソファから飛びのいて背もたれの後ろに逃げ込んだ。 「いっそ起こせ!」 「ひっどーい。まっ、当たり前のようで危ういのさ、俺たちの日常は。だからまぁ、それなりに噛み締めて過ごせばいいんじゃね?」 ひょこっと、私とギアッチョの間から顔を出したメローネは至極楽しそうにへらへら笑った。
「なくならないようにしっかり握り締めてさ。」 「うん、私は絶対に手放さない。」 「よし、それじゃあ俺のセクハラも一個一個噛み締めていこうぜ!」 「それとこれとは話が別でしょ!!」 「ホワイトアルバム!!」 私の拳とギアッチョの氷で覆った拳が、メローネの両頬を挟み込んだ。
キッチンから、美味しそうなカレーの匂いが漂ってきた。 もうすぐご飯だ!
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