舞われまわれ | ナノ
「いいところだね。」 「ああ。」 ブチャラティに案内されたのは海とこの町がよく見える高台の墓地。 風が心地いいその高台に、お父さんは眠っていた。
まだ真新しい墓石は何だか周囲から浮いた印象を与える。 持ってきた花束をその前に置いてみても、その下にお父さんがいるようには思えなかった。
もういないと言うことは、いやというほど思い知った。 それでも、こんな冷たい石の下にお父さんがいるなんて。 ここは静かでいいところだけど寂しいじゃないか。
久しぶり、ただいま。
よく映画なんかでそんな風に話しかけてるけど、やっぱり恥ずかしいから声にはしなかった。 それでも届くと信じて、心の中で語りかける。
びっくりしたよ、こんなことになっちゃうなんて。 何で言ってくれなかったの? 私はそんなに子供でしたか。 確かに、子供だったかな。 …今も子供だけど。 でもね、心の準備も無しにこんなことになっちゃったらなおさら動揺しちゃうよ。 それでも、いつでも明るい私を望んでいてくれたなら私はその期待に応えることが出来たのでしょうか。
ねぇ、そちらは仲良くやれてますか? お父さん、口下手だからうまく馴染めてないんじゃないですか? それだったらいつでも戻ってきてくれていいんだよ。 そうじゃなくても、たまには遊びに来てください。
姿が見えないと怖いけど、…ゾンビも怖いので、うまく実体が見える形で遊びに来てくれると嬉しいな。 私は相も変わらず元気です。 お父さんがそんな状態だったと知っていたなら私の元気を分けてあげたかったくらいです。
使われなくなった車椅子は玄関脇にたたまれて不貞腐れています。 食器一式も文句を垂れています。 お父さんがいなくなったら、あの家は広すぎて知らない家みたいです。
私は多分そっちにはいけないけど、いつまでも元気でいてください。 ここには遊びに来れるから、そのときは顔を見にでも会いに来てください。 ブチャラティもいるから寂しくないよ。 でもお父さんが寂しくないか心配です。 頑張って友達作ってね。
言い尽くせないくらいのありがとうで一杯で、ほんとうに、ありがとう。 いつも受け入れてくれて、認めてくれて、褒めてくれて、叱ってくれて、笑ってくれて、撫でてくれて、慰めてくれて、怒ってくれて、心配してくれて。 そして愛してくれて、ありがとう。
(さよならさよならありがとう叶うことならもう一度)
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