舞われまわれ | ナノ
父の葬式の手配をしていくうちに、自分が溶けていくような気がした。
「…そうですか。」 死亡診断書を記入しながら医者は俺に葬式等をどうするのかを聞いてきた。 よく動かない頭で、言われるがままに手配をしていく。 すぐに葬儀業者はやってきたのを覚えている。
次の記憶は、もう式の最中のものだ。 最小限の人間のみで行う式は寂しいものではあるが、友人の少なさは父らしくもある。 少ないけれど、本当に心から死を悼んでくれている人々がいる。 父は良い友を持ったんだな。
俺は―…?
あの夏の日から、父を守るために生きてきた。 でも父はこんなにも早く、あっけなく、病で逝った。 俺は、父を守れたのだろうか。 俺は、何のために生きればいいんだろう。
組織のため。 組織には俺の求める力はあった。 でも、正義はなかった。 俺はこのまま、この組織の中で腐っていくのだろうか。 許されざる悪に目を瞑り、生きながら死んでいくのだろうか。
父が死んでから一週間、そんなことを一日中考えながら俺は溶けていく。 毎日、玄関の年季の入った車椅子に迎えられて帰宅する。 そこに座る人はいない。
この家は、こんなに広かっただろうか。 断続的に聞こえていたこの車輪の音がしないだけで、こんなに静かなのか。 迎えてくれる人がいないだけで、こんなに寂しいなんて思いもしなかった。 一人分のお湯を沸かすのは早いんだな。 最初はつい湯を沸かしすぎてしまうことが多かったが、数日経てばそれも慣れる。
そう慣れていくんだろう。 すべてに。
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