舞われまわれ | ナノ







「あんなことしておいて風邪を引くなど馬鹿のすることだ。」
「返す言葉もございません。っくし!!!」
「おら、マキナ!くしゃみするときは口にしっかり手を当てろ!移っちまったらどうしてくれるんだ?」
「ギアッチョは大丈夫でし、なんでもありませんごめんなさい。」

危うく氷付けにされるところだった。
今そんなことされたら冗談抜きで風邪が悪化してしまう。

そう、この季節の変わり目の時期に土砂降りの雨の中に寝転んでいた私は風邪を引いた。
引くつもりも引くとも思っていなかったためなんとも悔しい。

現在、私は部屋でリーダーが作ってきてくれたお粥をゆっくり食べている。
お粥自体は絶品だけどリーダーから注がれる冷たい視線がなんとも痛い。
消化が悪くなりそうだ、なんて死んでも言えないけど。

高熱にうなされたりはしたけどゆっくり一人ベッドで心の整理をすることができた。
怪我の功名、というのだろうか。
今はもう熱も下がり始め体調は以前に比べればすこぶるいい。
まだ本調子ではないけれど。

「ほらよ。」
「ありがとう。ギアッチョは手も冷たいね。」
「もってなんだよ、もって。」
ギアッチョはスタンド能力を生かして定期的に氷枕を持ってきてくれる。
実にありがたい。

「だって氷使うじゃない。」
「冷たい男で悪かったな。」
「何言ってんの?手が冷たい人は心が温かいって言うよ。」
「は?そんなこと信じてんのかよ、お前は馬鹿か?とっとと食え!」
「照れるな。」
リゾットがすかさず突っ込んだ。
「照れてねーよ!クッソ、馬鹿ばっかだなここは!!」
壊れるんじゃないかと言うくらい勢い良くドアを閉め、ギアッチョは去っていった。

私は丁度食べやすい温度になったお粥をまた口に運んだ。

「…リーダー、仕事休んじゃってごめんなさい。」
「ああ、もう少し自己管理を徹底しろ。」
「うん。」
「風邪が治ったなら2日だけ休暇をやる。」
「え。」
「それで体の調子を取り戻せ。ここにいる必要はない。」
それは、一度帰ってもいいということなのか。

「…リーダー!!」
心遣いが嬉しくてお粥をひっくり返さないようにしてリーダーに抱きつく。
「ひっつくな。」
そう言いつつも無理に引き剥がさないあたり、リーダーは本当に人がいい。

「ありがとう。」

お父さんの死に目に立ち会えなかったのは残念だけど、私にとっては良かったのかもしれない。
正直、お父さんが眼の前で冷たくなっていくのなんか、見ていられない。
死体なんてたくさん目にしてきたけれど、その骸の顔が大切な人のものだったならと想像するだけで気分が悪くなる。

熱にうなされながら見た夢もそんな感じで、起きたときは歯の根があわないくらい震えているくせに汗はびっしょりだった。
この調子じゃ仮にお父さんの葬儀に立ち会っていても碌なことにならなかったに違いない。
正直まだ、実感もわかない。
まだ、今もお父さんがいつものように車椅子に座って窓際でのんびり本を読んでいる気がしてくる。

きっと、あの家に帰って『ただいま』って言ってそれで返ってきた返事がひとつ少なかったり、ご飯を一人前少なく作ったり、食器がひとつずつ使われなくなったり、そういうことを繰り返し実感していくのだろう。

その度に泣きたくなるんだろうな。

人を殺して生活してる私は、その仕事をこなす度に誰かをそんな気持ちにしていると思うと改めて酷いことをしているんだなと思ったりはした。
でも、私に狙われるならそれ相応の理由があるはず、と自己正当化に努めるうちに、顔も知らない誰かのことを気遣うのが面倒くさくなったあたり私はやっぱり天国にはいけないなと実感。

そんなことを考えているうちに、手元の容器は空になっていた。

(私が死ぬまでに天国〜地獄間の郵便制度は確立しているかな。)