舞われまわれ | ナノ
天気が変わったのは一瞬の出来事だった。
ペッシが日課のマラソンから帰ってきて、随分と最近は暖かくなってきて走りやすくなったでしょなんて世間話をしていた。
私が良く行く服屋のほうでも春物が出ていたとか、花壇の花が咲いていて表通りの方はたいそう綺麗だったなんてペッシは言っていた。 夜間任務後で起きたばかり、パジャマのままだった私はその一言で今日の午後は買い物に当てようと決めたのだ。
それなのに。 「土砂降りっすね。」 「ねー。」
お昼を食べ終わると、急に雨が降り始めた。 バケツをひっくり返したような豪雨である。 しかも西の空も東の空も、その先までもずっと真っ暗で、すぐに止みそうにない。
「最悪。」 空を睨み上げても落ちてくる雨水は止まらなかった。
「なんだ、お前ら。二人してぐうたれやがって。」 「兄貴!」
ピクン!と犬みたいに反応したペッシの顔が綻ぶ。 リビングですることもなく正にぐうたれていた私たちのところにプロシュートがやってきた。
「ペッシ、お前筋トレ終わったのか?」 「終わりましたよ!な、マキナ。」 誇らしげな顔のペッシがこちらに同意を求めてくる。
「うん、ちゃんと見張ってたよ。」 「そうか、よくやった。」 「へへっ。」 「じゃあそれぞれ100回追加だな。」 「…へ。」
半笑いの顔で固まるペッシ。
「頑張れペッシ。」 現実に引き戻すべく声をかけるとみるみる情けない八の字眉が彼の顔に形成されていく。
「えええぇぇぇぇぇええ!」 アジトにペッシの悲鳴がこだまする。
にぎやかな二人の掛け合いをBGMに台無しになってしまった午後の予定を私は考え始めた。
そうだ、家に連絡を入れようか。 この前帰ったときにブチャラティにもう少し連絡をしろと怒られてしまったのだ。 便りが無いのは何とやらだと思うのだが。
一番近くの公衆電話までならうまく屋根のある道が多いのでそこまで濡れずにいけるだろう。 とりあえず、着替えようかな。
「マキナからも何か言ってよ!」 「おうマキナ、このマンモーニに一言いってやれ!」 「兄貴ぃ!!!」 「プロシュートも一緒に筋トレしてくれるってことよ。」 「え。」
固まったプロシュートを一瞥して私は部屋に戻った。
(兄貴…ありがとうごさいます!!!) (誰もそんなこといってねえ!!!!)
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