舞われまわれ | ナノ







「…よぉ。」
「「…。」」

深夜イルーゾォとレンタルした映画を見ていると、ほっぺに真っ赤な手形をつけたホルマジオが帰ってきた。

「今日は帰ってこないとか言ってなかったか?」
「俺はその予定だったんだよ、ちっくしょう。」
呆れ顔のイルーゾォから冷えたタオルを渡されたホルマジオは不満顔だ。

「大人は大変だね。」
淹れたそばからさめ始めているココアを飲みながら笑う。
「こいつだけだよ。」
「うるせー。」

俺は別れるつもりなんて無かったんだぜ!なんて泣き言を言うホルマジオは若干お酒も入っているようだ。

「女はいつもそうだ!こっちの都合お構い無しに少し会えないだけで浮気だなんだって疑いやがって!俺ってそんなに信用無いのかぁあ〜?」
「ホルマジオは、そんなことしないよね。」
机に突っ伏すホルマジオの肩をぽんぽん叩いて励ましてやる。

暗殺チームによって培われたのは殺しの業だけではない。
私は確実に酔っ払いの扱い方をマスターしつつある。

「マキナ…!!!そういってくれるのはお前だけだぜぇええええ!!!!!」

ガバッと起き上がったと思ったらこっちの都合お構い無しに酒臭い顔でほお擦りされる。
酒入ると本当にスキンシップ過剰だなぁ。
普段がチーム内ではまともなほうなだけに残念である。

「ちょ、苦しい臭い!」
「お前は本当に小さいな〜。」
「成長してるわよ!」

失礼なことを言い出すホルマジオの顎に軽く一発かます。
が、ぱっと身を離してよけられてしまった。

「お前ら、深夜だから。騒ぐなよ。」
「"ら"ってなによー。ホルマジオがけしかけてきたのに。」
「マキナ、酔っ払いの言うこと間に受けなくていいから。ホルマジオは寝るなら部屋行けよ。」
「うぃー。一人のベッドは冷たいんだろうなぁ。」

先ほどのテンションはどこへやら、ず〜んとふさぎこんだホルマジオ。
よほどショックだったのだろう。

「そんなに引きずるもの?」
「だってお前、…そうだな、眼の前に大好物の超美味い絶品ケーキがあって、口に入れたその瞬間に、味わう前にそれが無くなったらどうする?口にまで入ったのに味わえずに消えちまうんだぜー!!!しかもその食べるときに使ってたフォークが頬に突き刺さるようなもんだ!」

言わんとしていることは分かる様な分からないような。
しかしたかがフォークが頬に突き刺さるなんてありえない。

けれど、確かに夢で美味しいもの食べようとした瞬間に目覚まし時計に起こされたりすると妙に凹む。
そんなものだろうか。

凹むと言えばお気に入りのマグカップがこの前割れた。
あれはこちらに来るとき父さんがくれたものだったからかなりショックでいまだに結構引きずっているから、それを思うとホルマジオの事も笑えないかなと思った。

「よし、一人で寝るのも寂しいしマキナ!一緒に寝るか。」
「それよりもイルーゾォが一緒に寝たいって。」
「待て、マキナ。」
「しょおがねえなあああ、よし、行くか。」
「しょうがないのはお前の頭だ酔っ払い!!!」
「照れんなって!」
「いい加減にしろ…!」
イルーゾォのナイフがホルマジオの頬を掠めるまで後5秒。

(二人ともうるさいよー。)
(けしかけてきたのはあっちだ!)
(酔っ払いの言うことは真に受けないんじゃないの?)