舞われまわれ | ナノ







「リビングを掃除しようとしてたのね。」
本当にごめんなさい、と再度、先ほどの男性、新入りのペッシに頭を下げる。
「気にすんなマキナ。つってもあれだな。お前がこいつ来た日に余裕でバカンスしてたのも悪いがな。」
「面目ない。」
「あ、あの…。あ、兄貴ぃ・・・。」

おろおろとしている彼は、年明けそうそううちのチームに配属された新入りらしい。
そんでもってプロシュートがギャングになる前につるんでた輩の中の弟分らしい。
プロシュートにあこがれてギャングになろうと決意して追っかけて暗殺チームまで来たらしい。
それでこれからお世話になるチームのためにと早朝からリビングの掃除をしようとしていたらしい。
らしい、のオンパレードである。

「私はマキナ。よろしくね。」
「は、はい。マキナさんですね…。」
「敬語じゃなくていいよ。こそばゆい。」
「う、うん。」
「それにしてもペッシは、殺しの経験はあるの?」
先ほどの動きはまるで素人である。

私の言葉にペッシはビクッと肩を振るわせた。
私とはなかなか目を合わせてくれないのでプロシュートのほうを見る。
プロシュートは苦虫を噛み潰したみたいに綺麗な顔をゆがませて言いづらそうに言い出した。
美人って言うのは顔をゆがませても綺麗なんだな。
「ねーよ。素人だ。ったく、なんでギャングになんかなったんだよ。」
「それは兄貴に憧れて!」
「それはもう聞いた。俺は言ったはずだぞ、甘いもんじゃねえって。馬鹿野郎が。」

目に見えてしゅんとするペッシ。
プロシュートはペッシにこちら側に来てほしくなかったのだろう。

それでもやっぱりちょっと嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。
「それじゃあ一から練習か、大変だね。」
「安心しろ、俺が責任もって一人前にする。お前らには迷惑はかけない。」
「迷惑なんて私は思ってないけど。」

他のメンバーは少なからず思っているのだろう。
頑張れ、ペッシ。

「成長しろよ、ペッシ。」
しょぼくれたペッシの頭にぽんと手を置くプロシュート。
「兄貴ぃ…うん、俺がんばるよ!」
彼の言葉に一気に顔が華やぐペッシを見て、私は何だが大きな犬を連想してしまった。
「けっ、口でなら何とでも言えるだろ。」
「そんなぁ…。」
それにしても本当にプロシュートうれしそうだなぁ。
「何ニヤニヤしてやがる。」
「何にも〜。今日の朝食何にしようかなっと。」

照れ隠しの矛先が此方に向くのは嫌なので私はキッチンに避難する事にした。