舞われまわれ | ナノ







「マキナ…。」
気分転換にと、普段行かないほうまで散歩にきたのが間違いだった。
人通りの少ない小道、ひっそりとした佇まいのバールに彼女はいた。

このまま気付かなかったことにしてUターンすればいい、それかさっさと通り過ぎてしまおう。
理性はそう警告するのに
「久しぶり。」
「あ、ドッピオ!奇遇だね〜。」
本能はそれを無視した。
「相席いいかな?」



「今日はお仕事おやすみなの?」
「いやそういうわけではないんだけど、息抜きに。」
「息抜き?自由な職場なのね。」
あの上司さんに怒られない?なんて意地悪に聞いてくるマキナの横には買い物袋。
買い物の途中なのだろう。
「大丈夫だよ、多分。」
ボスは任務さえこなせば態度やその他は問題にしない人だ。
ボスに干渉をしなければ、ボスの絶頂を脅かそうとしなければ。

そのおかげでパッショーネはいろんな意味で人材豊富だ。
本当にいろんな意味で、僕は部下でもある親衛隊の一人を思い出して背筋が寒くなった。

「マキナのほうこそ、今日は買い物?」
「ええ、夕食の買出し。今日はご馳走なんだよ。」「そうなの、またなんで。」
「時期はずれのカウントダウンパーティー…いえ年明けパーティーかなぁ。」

暫く家を開けていた人が帰ってきたの、と彼女は嬉しそうに笑った。
ちくり。

「そう、なんだ。大切な人なんだね、とても嬉しそうだ。」
「うん!」
これは、失恋かぁ。

「なんていうのかな、優しくて頼りがいがあって格好よくて、それで」
「ハハハ。大好きなんだね。」
「うん、大好き。」
決定打。
その言葉が僕に向けばいいのに。
僕への言葉じゃないと分かっているのに急激に脈打つ心臓、僕はかなり重症のようだ。

「なんていうのかな、ドッピオにとっての上司さんって感じの存在かな。」
「マキナ、僕はボ…その人のこと本当に尊敬してるけどその、恋はしてないよ。」
「い、いやだなぁドッピオ。私がいつその人に恋してるなんて言ったのよ。」
素っ頓狂な声が彼女から上がる。
「えっ。」
「あ、さっきの好きって言うのはそういう意味じゃなくて!わ、勘違いさせたね。ごめん!」
「違うの?」
「うん、それこそ前貴方が言ったみたいに、その人を思う気持ちで負ける気はしないけど恋慕とかそういうものは一切無いかな。そういう対象じゃないって言うか。」
「っ、そっか。」

目に見えて安心してる自分がいる。
そうなのか、僕にとってのボスか。

「それは素敵なことだね。」
「ええ!」

その後、彼女は彼が如何に素敵な人物かを熱く語ってくれた。
具体性には欠ける方向で。
そしてそれは僕のボスに対するものと確かに似ていて、僕の気持ちを代わりに代弁してくれてるみたいでくすぐったかった。

それでもって、その彼の話をする彼女は本当に眩しくて、やっぱり僕はその彼にちょっと嫉妬してしまうのだった。
マキナはボスに嫉妬してくれるのかな。

でも僕ボスとマキナだったらやっぱりボスを優先しちゃうんだろうな。
今日の会話でそれを実感した。
あ、でもそれはマキナもきっと同じなわけで、そうだとするとそれはなんだか悔しい。

そう思うのは身勝手だろうか。

(狂信者連合。)