舞われまわれ | ナノ
危ない危ない、うっかり僕がパッショーネの人間で参謀だってばれるところだった。
「もしかして、ボス?」 「へ…?」 「いやさっき言いかけてたのって。」
あれ。 なんと、いうことだ。 やばいどうしよう。 ボスがボスってばれちゃった…マキナには悪いが、消えてもらうしかない、そうだ。 そうなんだ、殺さなきゃ。 今すぐここで…いやここじゃあ人目につく。 まずは人通りの少ない路地に行こう。 安心させて後ろが取れれば僕だって 「上司に怒られたのかな?気にしなくたって良いじゃない。ドッピオの精一杯をやれば。」 「…ああ、そう、そうなんだ!!!!」
その一言で、一気に緊張が解けた。 なんだか意識が遠くに行っていた気がする。
どうやらマキナはボスと言うのをただの上司と言う意味で取ったようだ。 そうだよね、そもそも僕がパッショーネってこともボス直属の親衛隊員だってことも知らないんだから。
ほっと胸をなでおろす。
「その人の役に立ちたいのにいつもうまくいかなくて。」 「いい人なんだね、その人。そんな風に部下に思ってもらえるだけでその人十分嬉しいと思うけど。」 「え・・・?」 「あはは、なんか偉そうなこといっちゃったね。年下の癖に。」 「ううん、そんなことないよ、ありがとう!僕ね、その人のことを思う気持ちだけは誰にも負けない自信があるんだ!」 「情熱的ね。素敵だと思うよ。」
どうしてマキナはそうやって僕が喜ぶことばかり言ってくれるのだろうか。 嬉しくなってついつい続けてしまう。
「もうその人のためなら命を差し出したって惜しくないんだ!」 「容易く命なんていっちゃ駄目でしょ。でもきっとそれなら思いは本物だね。」
暗殺チーム所属の彼女が言うなんて滑稽な気がする言葉だけど彼女は神妙に言った。
「でも良かった、元気でたみたいね。」 「あ、そうだね!うん、元気でた!」 「良かった。でもそんなに素敵な上司なら年の瀬は会えなくて寂しいわね。」
彼女は僕が一般職の青年だと信じて疑っていないようなのでそれに合わせることにする。 「そうだね、でもそのおかげで君と会えたから気にしてないよ。」 「…ドッピオも立派なイタリア人ね。」
不覚だわと顔をそらす彼女の頬は先ほどよりちょっと赤い。 釣られて僕も赤くなる。
「あ、いやそういう意味じゃ、いやまったくそういう意味がないって訳じゃないんだけどッて僕は何を」 口を開けば開くほどボロがでまくる僕を見てマキナは噴き出した。
「っはははは、なんか、照れたのが、はは、馬鹿らしくなった…ふふ。」 「酷いよ!…もう。」 「ごめんごめん。あ、そろそろ私帰るわ。夕飯の支度しないと。」 「そっか、…そうだよね。」 「目に見えてシュンとしないでよ。」
何だか悪いことしてるみたい、なんてマキナは眉を八の字にする。 可愛いなあ。…あれ、僕今なんて。あれ?
「年明けまではこっちにいるから、また会えるかもしれないし…ってそっちはお仕事あるもんね。件の上司さんにヨロシク!」 「え、あ、うん。あの…。」
言葉が出てこない。 こんな時、なんていったらいいんだろう。 頭がオーバーヒートしそうだ!
「あ、ごめんなさい、連絡先は教えることが出来ないの…。別にドッピオを信頼してないわけじゃないんだけど」 申し訳なさそうにする彼女に此方が申し訳なくなる、そういう顔をさせたいんじゃないんだ。 君がギャングだって事もわかってる、だから君が住所を教えられないのだって僕は分かってるんだ。 けどそんなこといえないし。
「ううん、君とはまた、会える気がする。」
精一杯言葉を見つけて拾ってまとめあげる。
「だから、その、またね。僕も楽しかった、ありがとう。」 そう笑って言えばほっとした様な笑みを浮かべるマキナがどうしようもなく愛しい。 駄目だ、自覚し始めたらどうしようもない。
「此方こそ本当に有難う、助かったわ。それじゃあ、またね。」 そういって去っていく彼女から僕はどうして、目が離せなかった。
(とぉるるるん、とぉるるるるん、もしもし!ボス!?ボスぅ〜、どうしよう、ぼぼぼぼぼぼく…!) (落ち着け私のドッピオ、まずは落ち着け。)
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