舞われまわれ | ナノ







ソファーの陰から立ち上がると頭に軽い衝撃を受けた。
「む、マキナすまない。」
「リーダー。」

ソファにどかっと座っていたリーダーのはみ出した肘に頭をぶつけたようだ。
頭をさすりながら立ち上がりきると、リーダーの前に置かれた酒瓶の多さに再度眩暈を覚えた。
このチームのアルコールに対するエンゲル係数の高さは異常じゃないだろうか。
ブチャラティが節度を持って酒を楽しむタイプだっただけにギャップが半端ない。

そんなことを思っている最中にリーダーは新たなウイスキーをあけ始める。
酒瓶の数をなんとなく数えながらリーダーの横に座る。
少し端に寄ってくれるあたり彼は紳士的だ。
あれ、何処まで数えたっけ。
「リーダー、まだ飲むの?」
「ああ。」

言ったそばからグラスに中身を注ぐ。
ちゃんとグラスを使うあたりやはりまだ余裕があるのだろうか。
向こうでラッパ飲みしているプロシュートを見やる。
私の視線を追ってリーダーもまた、プロシュートを眺める。

「プロシュートは…」
楽しそうな彼から視線をはずさず、彼は続けた。
「プロシュートは適当なところが多くてな。周りにお構いなしなところがあったが、お前が来てからはそういうことも少なくなった。」
そういえば報告書書かなかったりしてたっけ。

「イルーゾォは私生活面でも自信がついたように思える。」
…そうなのかな。ギアッチョに絡まれ泣き言を言っている彼を見て首をかしげる。

「ホルマジオは任務に支障をきたすほど酔いつぶれて帰ってくることも無くなった。」
夜遊びは相変わらずのようだがな、と口角を上げてリーダーは続ける。
今現在、酔いつぶれていますが。

「ギアッチョは当番をサボらなくなったし、物を壊す回数も少しは減った。」
チームに入ってからたびたび机やら食器やらを壊す彼を目撃しているが、それでも減ったほうだとリーダーは言う。

「メローネも任務に対してまで斜に構えたところがあったが、最近はメリハリをつけている様だ。」
リーダーの手の中のグラスの氷がカランと音を立てた。

「ソルベとジェラートも排他的なところが強くてな、他のチームメイトとは一線を引くところがあったが今ではそんなことも無い。」
てっきり愚痴かと思えばむしろ子供の成長を喜ぶ親のようにリーダーは言う。

「ギャングの、しかも暗殺チームになんて所属している俺たちは問題ひとつ無い家庭に育ったことはまず、ない。親しくなれば成る程距離のとり方が分からなくなるんだ。」
不器用なんだな、とリーダーは目を細める。
今日の彼は饒舌だ。

「…。」
私は黙ったまま聞いていた。
「だがお前が来てからは、皆不器用ながら先輩としてがんばろうとしているんだろう。チームの空気が変わった。」

イルーゾォはあんなに面倒見はよくなかったし、プロシュートなんて張り切っていると彼は言うが以前の彼らを知らないのでなんともいえない。
「良い変化だ、礼を言う。」

そうしてリーダーに頭を乱暴になでられる。
力の加減が出来ていないあたりやはり酔っているのだろう。
彼の手の動きにあわせぐわんぐわん揺れる視界は決して愉快ではないが、撫でられる感触が心地いいのでされるがままになる。
「…どういたしまして。」

体がぽかぽかするのは無理やり飲まされたお酒のせいだけじゃないだろう。