闖入者



「アンタいい加減にしてくれません?」
「いいじゃないっすか、どうせ暇なんだしよぉ。」
「失礼な。絶賛部活動中よ。」
「一人で?」
「うっ。」


私、柊マキナが所属する文芸部はぶどうヶ丘高校において伝統ある部活である。
学校創建時からあるのだから歴史は長い、のに今現在は校舎の隅の隅の小さな空き教室に部室が追い詰められているのが現状だ。
それもこれも幽霊部員ばかりなのがいけないんだ。
高校に入って、就職のために何かしら部活に入っておきたいが面倒くさいのは嫌だという軟弱な学生の多くがこの部に名義だけ置いている。
そのため部自体は存続しているが実際活動しているのは片手で足りる人数のみだ。
しかもその数人も今年で卒業の3年生。去年の秋から受験勉強で実質既に引退済み。
今日も鄙びたこの部室には部員の姿は見えない。
そんな先輩方から部長を引き継いだ私は顔も知らぬ部員の存在を感じながら一人で活動中だ。
そしてこの後6月ごろまでは名簿上に名前があるのに一度も顔を出さない新入部員がまた増えるのだろうと頭を抱える。
このやかましい男を適当にあしらいながら。
「マキナ先輩っていっつも本読んでますねー。」
「アンタここ何部か分かってんの?出て行ってください。」
「そんな事いわないで下さいよぉ。ここにいるとうるさい女子から逃げられるんですから。」
たしかにこの男、東方仗助はそれはそれは女子からの評価がずば抜けて高い。
追い掛け回されて逃げている様子を見たことがないわけでもない。
顔なんて生まれついてのものだから、それが理由で追い回されるなんて溜まったもんじゃないだろう。
「友達呼ぶわよ。」
現に私の友達も彼の追っかけである。新入生に中学から目をつけていた美男子がいたと言った翌日から、メイクへの気合の入れ方が半端じゃなかった。
今もその情熱は律儀に続いている。まぁまだ学校始まってから数週間だもんね。
「勘弁してください。」
心底うんざりした顔で彼は言った。
「大体帰ればいいじゃ無い。なんで学校に残ってるわけ?」
「校門で出待ちされるんですよ、よくわからない他校の奴らに。」
それは、もうアイドル事務所の売れっ子のようなものじゃないだろうか。
恐るべし、東方仗助。
「大変ねー。」
「全然思ってないっすよね。」
「全然。迷惑だもの。邪魔だから出て行って。」
私は本が読みたいんだ。
「本くらい家に帰ってからでも読めるじゃ無いですか。」
「じゃあ私は今この場で何をすればいいのよ。」
今は書きたい小説もない。
「俺とおしゃべりとか。」
「自惚れんな。」
「手厳しい。」
埒が明かない。
「最近毎日のようにここに来るじゃない。なんでばれないのよー!ばれてしまえ!そしてここに寄り付くな!」
「だってこんな辺鄙なところ誰も来ないっすよー。」
痛いところを…。
「嫌な事言うわね。私がうるさい女子になればアンタは出てくんですか。」
「それはそれで嬉しいっすね。」
「は?」

(アンタ、言ってる事が矛盾してるわよ。)
(あれ、俺今結構大事なこと言ったんすけど。)

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