20124016



あなたが一言我侭を言ってくれるのなら、私は飛んでいけるのに。

「本当にごめんなさい…会社で新人を任せられちゃって…」
『大丈夫ですから、そんなに気を落とさないでください。ね?』
電話越しに聞こえるジョルノの声は何処までも気遣わしげだった。
本来気遣うべきは私のほうなのに。
それが一層私の罪悪感を掻きたてた。

毎年四月の十六日、私の彼氏であるジョルノ・ジョバーナの誕生日に私はイタリアへ渡っていた。
日本の年度の初めである四月、その早々から休みを取る事で、上司に迷惑をかけている自覚はあったが普段の勤務態度のおかげかどうにか今までは休みを取れてきた。
しかし、今年ばかりはそうも行かない。
新人の指導を任せられてしまったのだ。
新人を任せるに足る、と判断された事は嬉しいがこれでは休みが流石に取れない。
ボーナスなし、クビ覚悟で頼めばあるいは…いやそれでは私が食うに困る。
それでもジョルノが一言、私に会いたいといってくれるのなら、なりふり構わずイタリアへ私は飛べるのに。
でもこんなとき彼はそんな事は一言も言ってくれない。
困ったように少し寂しそうに笑って身を引くのだ。
いつだってそうなのだ。
もっと我侭を言ってくれてもいいのに、
ジョルノの中での彼自身の優先度があまりにも低い事を私は知っている。
その事が歯がゆくもあり、結局私は今それに甘えてしまっているのだろう。
でもそんな彼だからこそ、自分の思いに蓋をする事に長けてしまった彼だからこそ。
彼が会いたいといってくれるのなら私は何が何でも会いに行きたいと思えるのだ。
会社にかける迷惑なんて、毛ほどの価値もなくなるのだ。
なくなるのだが…。

「…代わりにプレゼントは奮発するわ!何が良い?何でもいいわよ。今から送れば、丁度誕生日に着くはずだわ」
『何でも…?何でも、いいんですか?』
「ええ!」
しがないOLの安月給でかなえられるものなら、何だって用意するつもりだ。
『それなら…』
「うん、何かなっ」
『…貴方に会いたい、な…』
「…っ」
『いえ、面白くも無い冗談でした。忘れてください。そうだな、えっと』
「飛ぶわッ!!!」
ジョルノが取り繕う暇を与えずに私は叫んだ。
『・・・え?』
「何でもって言ったでしょ!」
『ええ、…でもマキナ、そんな』
「いいの!…その代わり、クビになったら責任とってね!」
『それは…クビになってもらった方がプレゼントが増えますね』
「もう!」
そんな事を言われたら本気にしてしまうじゃあないか。
『マキナ、』
「ん?」
『ありがとうございます、僕は幸せ者だ…』
電話の向こうのジョルノは至極嬉しそうに笑っていた。
今この瞬間を噛みしめるかのように。
そんな事を言ってもらえる私は彼以上に幸せ者に違いない。

そうと決まればすぐにでも動き始めなければなるまい。
打倒上司、待ってろイタリア!
必ず休みを勝ち取って見せるんだから!!
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