「おはよう、形兆の兄貴!」
「いつ誰が手前の兄貴になったんだ。」
「またまた、照れないでよー。はっ、まさか『お兄ちゃん』が良かった?」
「頭沸いてんのか。」
登校、と呼ぶにはいささか遅すぎる、昼過ぎに形兆はやってきた。
クラスに入るだけで持ち前の威圧感で同級生たちは固まる。
その光景は中々に滑稽で私は大好きだ。
いつものように声を掛けるといつものように面倒くさそうに返された。
ドカッと私の横の席に座る彼を見るとこの平凡過ぎる学校生活もなかなか悪くないと思える。
端的に言えば、私は彼が好きなのだ。
といっても恋愛の類ではなく、この群れようとはしない彼の気概が好ましい。
普通の高校生というのは他人に合わせてでも仲良しグループを作るというのが普通じゃ無いだろうか。
彼は転校してきてから一度もそうやって人に合わせたことはないだろう、少なくとも私の見ている前では。
私は自分の知らない範囲の知識を持っている友達と話すのは好きだけど、特定のグループを作ってしまうのは嫌いだ。
周りに合わせるの自体は好きじゃないのでいつもふらふら、いろんなグループを転々としている。グループを作って排他的になるなんてもったいないじゃないか。
どうせ短い人生だ、出来るだけいろんな人と出会いたいと思うのは変なことだろうか。
そんなわけで私は目下、今まであったことのない類の、この形兆という人間に興味津々なのだ。
「今日もバッチリ決まってるねー。」
思いっきり彼の頭を見ながら声を掛けたつもりなのだが、スルーされてしまった。
「髪の毛下ろしたらどれくらいになるのさ。」
無言である。向こうのほうで友達がひやひやした顔で此方を窺っている。
そんな気になるなら会話の輪に加わろうよ。とりあえず手を振っておいた。
「形兆君の耳は飾りかいー。あ、涙は飾りじゃ無いんだよ。」
この前テレビの懐メロ集で流れていた曲を思い出す。
「そういえばさ、懐メロって私少し前まで夏の曲かと思ってたんだよね。耳で聞く分にはそれでも意味通りそうじゃん。それで文字を見てびっくり!懐かしいんかい!みたいな。」
「…さっきから迷惑だ、嫌がらせか?」
「そんなんじゃ先生に二人組み作れって言われたときに困るよー。」
「ガキかよ。」
なんだかんだ、いつも最終的には会話を成立させてくれる彼は大変面倒見がいいのか、私は意外に気に入られているのか。
後者はうぬぼれである可能性も否めないので前者が有力かな。
「確かに、君は老けてるからガキ扱いは出来ないって睨まないでよー。大人っぽいってことだよ。」
面倒見もよくて大人っぽい、お兄さんみたいだ。
「あれ、もしかして弟とかいたりする?」
「…ちっ。」
「肯定と受け取ります。」
「好きにしろ。」
形兆君の弟か。
「きっとおっかないんだろうねぇ。」
「それは俺に対する嫌味か。」
「あれ、自覚あるんだ。だから睨まないでよー、そこがおっかないんだって。」
凄みを感じる視線である、本当に高校生かと疑いたくなるほどだ。
そこらへんの不良だってもっと優しい目をしてるよ。
「じゃあ話しかけなけりゃいいだろう。」
ガタッと椅子を後ろに飛ばして立ち上がる形兆君。
おいおい、来た早々にサボりですか。
「君のそういう面倒見の良いところ結構好きだよー。」
「…ドMか?」
「やめてよその冷たい目!君がおっかないだけの人なら即効シカト決め込んでるよ。」
「…ちっ。」
足早に出口に向かい始める彼の後を追うべく私も立ち上がる。
「照れていると受け取ります。」
「自惚れんな、そしてついてくるな。」
「今日の占いで、金髪不良な弟もちの人とサボると運気アップって出てたから仕方がないじゃ無い?」
勿論口からでませである。
「…勝手にしろ。」
「私みたいな可愛い子に付きまとわれるなんて光栄じゃない。」
「付きまとっている自覚はあるのか、そんでもって鏡買え。」
「ハハハ、冗談うまいね。」
「…。」

(心底不憫そうな目をされました。)

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