あのとき



どうして窓際の席は女子の列なのだろうか。
僕は隣の列を見つめ、ため息をついた。

新しい席替えで僕の席は一番後ろの一番窓際になった。
といってもそれはあくまで男子の列での話であり実質僕の席は窓際から二番目である。
この教室の真下は中庭となっており綺麗な草木が生い茂っている。
季節を問わず大変景色がいい。
しかも眼の前には桜の木があり、スケッチするにはもってこいの席だ。
だからこそ、何故一番窓際が女子の列なのか。
これじゃあ窓枠で切り取られた景色しか見えないじゃないか。
しかも女子というのは往々にして日焼けを嫌い、すぐにカーテンを引く。
虫が入ってくるのが嫌で、窓も開けない。
せっかくの窓もその外の自然も彼女らにとっては敵でしかない。
そんなに嫌なら変わってくれればいいのに。

席替えをしてから三日間、僕はそれが残念でならなかった。

僕の羨望の的であるその席を見事手に入れた柊マキナは、今日も窓の外を眺めている。
羨ましいことこの上なかった。

そんな思いがあるものだから、窓の外を見るついでになんとなく彼女を眺めてしまう。
いや、窓の外を見ようとすれば彼女が視界に入らざるを得ないのだ。

席替えから今まで、視界の端に彼女をとらえ続けて気づいたことが一つあった。
彼女が外を眺める目は時折鋭さを増す。
対象を射抜かんばかりの鋭い視線。
それが何に向けられているのかまでは僕にはわからなかった。

もしかしたら、彼女も絵を描くのだろうか。
それは僕が絵を描くときに対象を深く見ようとする目に似ていた。
しかし僕は彼女の絵を描くところを見たことはない。
ただの思い込みだろうか。
それならば彼女は何をそんなに見つめているのだろうか。

朝のHR中そんなことを考えていると、彼女と目が合ってしまった。
「あ、」
気まずい。
「えーっと…」
彼女は困ったように笑った。
僕も曖昧な笑みを返しておいた。
なんとなく隣になっただけの面識のない生徒。
お互いその程度の認識だ。
けれど。

「そうだ、花京『院』君だ」
「…その大院君みたいなイントネーションやめてくれない?」
「呼びにくいから花京院でいい?」
「君、変わってるって言われるだろ」

ふぁーすと、こんたくと。

(目ェ合ったときにパッと名前浮かばなくてさ。君、影薄いね)
(それ例え思っても普通本人に言わないよね)

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