人魚姫



「エリナ、おめでとう」
「ありがとう、マキナ」

そういって微笑む彼女は世界で一番美しいに違いない。
眩しすぎて、私は目を細めた。
その時、部屋のドアがノックされた。
ノック音はどことなくぎこちない。
扉の向こうの彼の落ち着かない様子が手に取るようにわかり、私はエリナへ肩を竦めて見せた。
「エリナ…やっぱり、駄目かい?」
案の定、ジョナサンだったようだ。
「ジョナサン!絶対入っちゃダメよ。絶対ダメ」
エリナは彼女にしては珍しく強い口調でジョナサンに物を言う。
今から尻に敷かれているジョナサンが面白くて仕方がなかった。

新婦の花嫁姿を花婿が見るのはヴァージンロード。
エリナはそれを律儀に守っているのだ。
私はエリナがジョナサンに見えないように戸の隙間をすり抜けるようにして外に出た。

「おめでとう、ジョナサン」
「ありがとう、マキナ!!…やっぱりダメかい?」
「ダメよ。この幸せ者」
目の前でそんなにのろけないでほしい。
私はあからさまにため息を吐いた。
それでも目の前の彼は扉の向こうが気になるようで、私のことはどこ吹く風だ。

私はもう一度、ため息を吐いた。

二人のことは大好きで、子供の頃から応援してた。
お似合いだとも思うし、幸せになってほしい。
ひとつひとつを順番に確認していく。
そう、だからこそ私はこの思いに蓋をできた。

それに、そんな二人じゃなくちゃあ私…好きにならなかった。

だから。

でも。

それでもやっぱり私は。

「ジョナサン」
「なんだい?」
「…いえ、おめでとう、末長くお幸せに」

出来るわけがなかった、彼にこんな幸せそうな笑顔をさせられるのは彼女だけなのだ。

私が入り込めないくらい、うんと仲良く幸せになればいい。
手を取り合い、ゆっくり老けていけば良い。
どこまでも一緒に。
私は、それを見守り続けたい。
二人の幸せを心から願ってる。

その気持ちには偽りがないと神に誓えた。

でも本当は私。

「…人魚姫になんかなりたくなかった」
「え?なにか言ったかい?」
「なんでもないわ、そろそろ会場に行くわね。しっかりやりなさいよ?」


まだ体は海に還れないから、今はせめてこの想いを海に還しましょう。

(泡となれ、泡となれ。)

ただひたすら願った。


  o
 0゚
  ○

それなのにどうして。

(貴方が先に海に還るのよ)



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