最優先事項の前後について



「そういえば先輩って駅使ってましたっけ」
「ううん、今日は本屋に用があってね」
運ばれてきたケーキをそっと自分の方へ寄せつつ、私は返事をした。

「あー、あそこの本屋デカイっすよね。俺もよく漫画買いにいくし。先輩漫画とかは読まないんすか?」
「漫画かぁ。あんまり最近は読んでないかな。あ、でも友達に借りたピンクダークの少年は面白かったわ」
「ふーん、なんかそれ人気っすよね。俺あんま読まないけど」

カラン、と彼が持つアイスコーヒーの氷が音を立てた。

「なんか、考えてみると俺先輩のこと何にも知らねーや」
駅のロータリーのほうを見つめながら彼は言った。
「そりゃあ、ひとつ違うもんね」
中学で知り合いだったわけでもないし、4月に彼が部室に逃げ込んでくるようになってからの仲だ。
いや、仲ってほどのものでもない。
「そういうもんすかねー」

先ほどからずっとロータリーのほうを眺めながら彼はいう。
何が不服なんだろうか、考えても分からないので私はケーキを口に運ぶ。
うん、やはりれんが亭のケーキは絶品である。

「俺としては、っすよ?もっと、その」
「うん?」
お行儀良く長方体の形で切り分けられたそれを倒さないように恐る恐るフォークを突き立てる。
ケーキって倒れるとクリームが皿について凄く、損した気がする。
食べ終わった後汚くなるし。

「…先輩のことが知りたいっていうか」
「うん」
食べ進めれば食べ進めただけケーキは倒れやすくなる。
いや、ここからが本番なんだ。
「…あの、俺」
ようやく此方を向いた彼に釣られて私も顔を上げる。
「うん?」
「先輩のことが、……好きっす!」
「うん、…へ?」

ケーキが倒れた。
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