読む本全部が楽しいわけじゃあない。



「ふぅ…。」
読む本すべてが、自分に合うとは限らない。
それはすべてのことにも言えるのだけれど。
実際、今読んでいた本もそうだ。
あまり自分には合わない本だったようで集中力が続かず窓の外にばかり気が取られる。
読み始めたばかりだというのに我ながら情けない。
夕日に照らされた新緑が実に眩しい。
私は大きなあくびをひとつした。
校門に向けて帰路に着く学生たちの影が細長く伸びている。
今日も今日とて、彼は姿を見せない。
今までが異状だったのよね。

連休も明けた頃になると、東方仗助人気もひとまず落ち着いてきた。
というか、追っかけの仕方の規約でも出来たようで節度のあるものに変わってきたというべきか。
けれども決して彼の人気が下火になったわけではないようだ。
友達たちは未だに彼への視線が熱い。
しかしそれはやはりブラウン管の中のアイドルに向けるものと同じらしく彼女たちはちゃっかり他に彼氏を作ったりしている。
彼氏としてはどうなんだろうかと思うこともありそれとなく聞いてみたが、端から彼と自分を比べようとは思っていないようだ。
アイドルヲタクの彼女ができたと思えばいいとのことだ。
そうしたこともあり、東方仗助は部室に姿を現さなくなった。
やっと静かに活動が出来る。
最初はそんな風に思っていたのだけれど。

「…。」
話し相手が居ないって、味気ないものね。
一旦本の世界に入ってしまえば気にならないのだが、どうにも最近面白い本がない。
小説でも書いてみるかな、と思ってもなんだか奴の顔が頭にちらつくので集中できないでいる。
来なくなったところで、迷惑な奴に変わりないじゃ無いか。
と文句を言いに行きたいところだが理不尽であるのは分かっているし何より彼と私はそんな仲ではない。
ここは彼にとっては隠れ場所として重要であっただけで、そこにたまたま私がいただけなのだ。
知り合いといっても友達ではない、他人にごく近い知り合いなのだ。
まぁあの一ヶ月が普通じゃなかったんだ、と自分を納得させる。
寂しくないといえば嘘だが、その程度の人間に依存するのは筋違いである。
さて、気持ちを入れ替えるためにも本屋によって帰ろうかな。
それなら部活はもう終わらせてしまおう。
…どうせ誰も来ないのだから。

面白そうな本があればいいんだけどなぁ。
私は手早く帰り支度を済ませて部室を後にした。


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