05.23



いつものように音楽室に行くとエンポリオが盛大に出迎えてくれた。泣き顔で。

「わああ、マキナお姉ちゃんんんんんんん!!!!良かったぁあ、僕一人じゃもう…わああああ!!!!」
「ど、どうしたの。」
彼が逃げてきた方向からはいつものように無表情なウェザーがやってきた。
今日はアナスイはいないようだ。
「ハロー、ウェザー。」
一体エンポリオは何におびえていたのだろう。
幽霊の音楽室にゴキブリでも出たのだろうか。
ウェザーはいつもと変わらない様子である。
「マキナ。」
ウェザーは歩調こそゆっくりで近づいてくるが足が長いので速度はそれなりに速い。
何か用でもあるのだろうか。
「お、お姉ちゃん逃げて!」
「は?」
振り返るとピアノの下にエンポリオは逃げ込んでいる。
ピアノの下には入るなって先生に習わなかったのかしら、危ないわよ。

ちゅっ。

「へ。」
何か今、頬に。
「って、うぇうぇ、ウェザー!?何すんのよ!」
「キスだが。」
顔が近い!慌てて最大限壁際まで距離をとる。
彼は相変わらずぼけっとした顔でこちらを眺めている。
「ああああああ…お姉ちゃんまで。」
「エンポリオ、これどういうことよ!」
「知らないよ!僕だって急に、…うぅ。」
うら若き少年にとって余程の精神的ショックだったに違いない。
グズグズ泣いている彼がいたたまれない。許せん、ウェザー!
「って近ぁっ!!!」
エンポリオの方に気をとられていたら目の前にウェザーの顔があった。
後ろは壁、に、逃げられない!?
「ちょ、落ち着きなさいよ。落ち着こ…〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!」
「マキナお姉ちゃあああああああああん!!!!!!!!!!」
私の唇は抵抗虚しく塞がれてしまった。なんてこったいド畜生。
「…っぷは、っざけんじゃないわよゴラァッ!!!!!!!!」
開放された瞬間に膝蹴りを食らわすが避けられる。チクショウ!図体でかいくせにすばしっこいわね。
「何故怒る。」
人の渾身の反撃を悠々と避けくさったウェザーの野郎は頭に?を浮かべている。
「お前の頭の中には綿菓子でも詰まってんのか!!!!」
「今日はそういう日なのだろう?」
「は?」
「アナスイが、」
嫌な予感。
「…アナスイが、何てアンタに吹き込んだの…?」
「今日はキスの日だから日頃からお世話になっている人達にキスをする日だと。」
「…。」
「間違っていたか?」
あくまで真っ直ぐな目でこちらを不安そうに見やる彼に怒る気力が失われていく。
「騙されたのよ、あんた。」
「そう、なのか?」
「今まで誰にキスしたの?」
「エンポリオとお前だ。」
看守や他の囚人にしていなくてよかった。
危うく彼がいろんな意味で危なくなるところだった。
「…アナスイにはしてないの?」
「する前に出て行ってしまった。」
「…とりあえず、エンポリオに謝っときなさい。」
「ああ。」
ピアノの下の憔悴しきったエンポリオが大層不憫だ。
恐らくこの大男にいきなりキスされたのだろう。
10そこらの少年にとって悪夢以外の何者でもない。
…今度お菓子でも持ってきてあげよう。
二人がひとまず和解する頃を見計らって声をかける。
「ウェザー。」
「マキナもすまなかった。」
「侘びはいいからアナスイ連れて来い。」
「わかった。」
さて、どうしてくれようか。


(お仕置きは、ウェザーとのディープなキスでいいかしら。)
(ついでに写真も撮っとこうよ。)
(エンポリオのそういうところ好きよ。)
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