08
父の真剣な話を終えた後、私は旅に出ることを決めた。そうと決まれば旅支度。セツナちゃんも言っていたが、念入りにする必要がある。まずは動きやすい服。そして食料や水。荷物が多すぎると移動の際に困るからと、本当に必要最低限なものだけをリュックに詰め込んだ。

「そういえば研究所に行ったときにポケモンを貰ったんだろ? どんな子だ?」
「それが驚くことに、色違いのイーブイなんだよ」
「へえ、それは珍しい。父さんには見せてくれないのか?」

そわそわ、ちらちら。落ち着きのない様子でテーブルの上に置いてあるモンスターボールと私に視線をやる。そういえばうち、ポケモン持っていないんだった。つまり我が家で初めての子ということ。父が気になるのも当然のことだ。

「……これ、どうやって出すのかな?」
「白いボタンを押すんじゃないか?」
「あ、そういえば入れるときもここを押してた……うわっ!?」

父に言われた通りに白いボタンを押すと、小さかったモンスターボールが大きくなった。驚いた私は慌ててしまい、手から滑らして落としてしまった。今の衝撃で壊れたりしてないよね? 狼狽えていると、ぱかっと開いて赤い光線とともにぶいっ! と元気よく飛び出しすイーブイ。

「ほう。元気なイーブイだな」
「今までずっと寝ていたから、体力が有り余っているのかも」

イーブイはきょろきょろと部屋を見渡しては首を傾げている。その度に首回りの毛がふわふわと揺れる。そして薄青色をした大きな目がじいっと私を見つめ、ぽてぽてと可愛らしい足取りですり寄ってきた。

「……可愛すぎる!」

可愛さのあまりイーブイを抱きしめた。おお、これが生ポケモンの肌触り。初めて触るポケモンは思っていた以上にふわふわと柔らかく、そして人肌に負けない温かい体温だった。それに感動していると、イーブイがぶいぶい! と鳴いて、小さな舌で私の顔を舐めだす。

「イーブイくすぐったいってばー」

小さく笑いながらイーブイを顔から離すと、ぶーい……。しょんぼりと耳と尻尾を垂れさせていた。ああ、なんだろうこの可愛い生き物は。これがポケモンなのか。こんな可愛い子と一緒に旅できるなら悪くないかもしれない、と思ってしまうところを我ながら現金な奴だと思う。

「そのイーブイには名前をつけないのか?」
「名前……」
「イーブイというのは、俺たちで言う人間みたいなものだろ。これから旅を共にする仲間をずっと種族で呼んでいくのか?」

確かにそれは一理ある。私も、長い付き合いになる人からスグハではなくて、人間と呼ばれ続けていたら寂しい。ポケモンに人間の言葉が通じるのかは分からないけど、気持ちは伝わるものだろうし。そう考えるとやっぱり呼び方は重要だよね。

「何がいいかなあ」

しかし、いざつけようとすると何も思い浮かばない。名前というのは、一生の付き合いとなる大切なものだし、意味のあるものにしてあげたい。

「お父さんは私の名前をどうやってつけたの?」
「そうだな……。将来、お前がこう育つといいなという希望を名前に託したかな」

将来の希望を名前に託す、か。なるほど。この世界では基本的にカタカナで名前を表記するけど、漢字でどう書くかも家庭によっては決めている。私の字もあるから、あとでどういう意味か調べよう。

「ミチ。導くと書いて、ミチ」
「珍しいな。道路の道じゃなくて、導くの方なのか?」
「うん。お父さんが言う通り、私は旅に出て自分らしさを見つけるべきなのかもしれない。でも、1人で探していたら自分らしさがいつまでたっても見つけられず、諦めてしまうと思うの」

私のこの性格は1度目の人生プラス14年かけて形成されたものだから。そう簡単に変えることはできない。きっと変えようとしない方が楽だろう。

「そんなときはこの子がどこへ進めばいいか教えてくれる。生まれたばかりの子にそんなことを期待するのもおかしいかもしれない……だけど、そんな気がするの」

ついさっきまで旅に対して後ろ向きだった自分から出てくる言葉だとは思えない。なんてご都合主義なのだろう。でも、いいじゃない。父だって自分の希望を私の名前に乗せたように、私もこの子に自分の希望を乗せても。

「……きっと長旅になるけど、よろしくね」

こつんと額を合わせて笑えば、導はぶい! と元気に鳴いた。


prev next

bkm
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -