03
自転車に乗って出発進行。ぐんっと足に力を込めてペダルを勢いよく回す。しゃーっと音をたててタイヤが回り出すと、緩やかな斜面なために徐々に徐々にとスピードが速まる。

「風がきもちー」

今の私の出生地、『ヒダタウン』は田舎である。1軒1軒の間隔が広く、その間には大きな畑がある。一家に一面はあるよね、畑。うちにもある。発展した街から物凄く離れているから物の流通が悪いのでどうしても自給自足な生活を強いられてしまった結果だ。ちなみに私の仕事は毎日の水やり当番。日に日に育っていく作物を見るのが面白くて、意外とはまる。

「そんな町だから、通り過ぎる人たちに御裾分けをもらっちゃうんだよねぇ」

しばらく自転車を漕いで、汗がじんわりと滲んだ頃に研究所に到着。自転車の籠には通りすがりの気前が良いおじいちゃん、おばあちゃんたちに頂いた収穫物が詰まっている。これで当分の間は野菜には困らない。
さて、問題はこの研究所にどうやって入るか。ちらりと腕時計を確認してみたら12時を回っていた。3時間の遅刻とか……社会人だったらお説教じゃ済まないね。

「……だからといって玄関前で突っ立っていても始まらない」

素直に謝ろう。そう決めて、チャイムを鳴らすが、人が出てくる気配がなかった。仕方がないので恐る恐ると扉を開けて中を覗き込むと……えっと、なんだっけ。白い角がくるんとなって、黒い尻尾が細長い……そうだ、ヘルガーだ。ヘルガーがクッションの上で丸まって寝ていた。起こしたら不審者だと思って吠えられるかもしれない。そう思って音をたてないように静かに扉を閉めて、さて博士のもとへ行こうと振り返った。

「ひいっ」

すると、先程まで寝ていたはずのヘルガーがいつの間にか私の目の前にいた。足音1つしなかった、怖い。
吠えられる? 噛まれる? ポケモンを目の前で見たのは初めてのことでびくつく。しかも鋭い犬歯が生えたヘルガーだし。しかし、それは杞憂だったようで、ヘルガーは私の服を軽く引っ張ると、歩き出した。
案内でもしてくれるのだろうか。ヘルガーの行動に首を傾げながらついていくと、その考えは正しかったようで、ある一室に辿りつくと、ヘルガーは顔をくいっと扉に向けて中に入れと訴える。

「お、遅れてごめんなさい!」
「そんなに畏まらなくてもいいよ。3時間の遅れなんて可愛いものさ」

他の部屋よりも少し豪華な扉を開いて中に入るなり、頭を下げると笑い声が聞こえた。頭を顔をあげて。すっと耳に染み込む声にそう言われて私は顔をあげ、そこでようやくこの部屋にいる人たちを視認した。
1人は笑顔で私に手を振る金髪碧眼の少年。もう1人は苛立ちを隠すことなく私を睨む左目に眼帯をつけた黒髪黒目の少年。両方とも知らない人だ。そしてその2人の奥にいる白衣に身を包んだ女の人が博士、だろうか。

「初めまして、私はユノという。フィールドワークに出かけたきり帰ってこない方向音痴な博士代理だ」

どうやら彼女は博士じゃないらしい。


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bkm
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