09
朝、珍しく目覚まし時計が鳴るよりも早く起きた。一階に降りれば、父が既に朝食を作ってくれていて、久しぶりに2人で食べた。ううん、久しぶりに2人でじゃないや。初めて2人と1匹で、だ。
それから洗顔して、歯磨き。洗面所の鏡でにらめっこしている私の隣では、ぬるま湯が張った洗面器で顔をあらっている導がいる。

「本当に父さんは見送りに行かなくて大丈夫なのか?」
「平気、平気。それに、見送りに来られたら出発早々寂しくなるじゃん」

自転車は持っていかなくていいかな。1番道路は山道だし、シマイタウンから次の町はおそらく飛行船に乗るだろうし。うん、歩こう。

「じゃあ、お父さん。いってきます」
「スグハ、いってらっしゃい。身体に気を付けて、導と仲良くやるんだぞ」
「はーい!」

スニーカーの紐をきゅっと縛り、導を抱えて私は家を飛び出した。


*****


「うげっ。10分前に来たのに、私以外もう集まっている」

既に集まっている3人のもとへ駆け寄る。昨日から思っていたのだけど、眼帯くん。私のこと睨みすぎじゃない? 昨日の遅刻の件で私の印象は最悪なのかな? ……最悪なんだろうなあ。

「スグハちゃん、おはよう」

見たことのない小型の機械で誰かと通話していたセツナちゃんは、私が来たことに気付くと通話を切って、その機械を鞄の中にしまっていた。あれ、なんだろう。携帯電話のようなものかな。

「うん。これで3人揃ったね」
「今更なんだけど。4人で行動しないといけないくらい1番道路って危ないの?」
「うん。新人トレーナーが通るにしてはレベルが高いかな」
「なんでそんな場所を1番道路に……」
「セイショウ地方はヒダタウンにしか研究所がないからじゃないかな。新人トレーナーを公式的に送れる場所が研究所だし」

金髪くんの質問にセツナちゃんは苦笑いを浮かべながら自信なさげに返事していく。でもその後すぐにはっとした表情で拳を握り「だ、大丈夫! 危ないときは私たちで守るから!」と、おそらく旅を目前としている私たちにそんなことを話したせいで更に緊張をさせてしまったかと思っての行動だとは分かるのだけど……。

「レベルが高いポケモンだってよ。たっのしみー」
「問題はこの山道を越える方だろうな。雨が降ったら大変なことになるよな」
「いっちゃん、フラグって言葉知ってる?」

金髪くんと眼帯くんは笑いながら会話をしていて、緊張の欠片は見られない。あ、笑っているのは金髪くんだけだ。私も、思うところはいろいろあるけど、たいして緊張はしていない。

「出発すると戻ってくるのが難しくなるけど、忘れ物はない?」

私たちは頷く。その反応にセツナちゃんは「そっか」と笑顔を浮かべて、1歩前へ出た。
支えあって活きる町、ヒダタウン。そう書かれた看板を越えればそこはもう、1番道路。私たち3人はあと1歩踏み出せば、そこに行ける。先に1番道路に出たセツナちゃんはくるりと振り返ってちょいちょいっと手招きをする。

「……」
「いっちゃん、やる気に満ち溢れた若者の目をしてるなー」
「次、それで呼んだら潰すぞ」

2人は迷うことなくセツナちゃんに続く。私はというと、14年間住み続けた町を見ていた。旅立つと決めたものの、いざ行こうとすると父との思い出が詰まったこの町からなかなか出れずにいた。そのとき、かたりと導が入っているボールが揺れた。まるで、早く外の世界を見に行こうよと誘っているみたいに。

「そうだね。立ち止まっていても意味はないよね」

深呼吸をしてから、ようやく躊躇っていた1歩を踏み出す。たかがそれだけで景色が変わるというわけではない。しかし、踏み出した瞬間、ぶわりと空気が変わった気がした。

「よーし。出発進行―!」

元気にそう言ったセツナちゃんにノリよく返したのは金髪くんだけだった。ごめんね、セツナちゃん。貴方たちに比べると若干おばさんな中身をしてる私はそこまではしゃぐことはできないかも。


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