ツバサに抱えられて部屋を移動させられたヒトカゲは腕の中で暴れる。シャアシャアと鳴いて訴えたり、時には噛み付いたりして。しかし、ツバサは痛みで顔を顰めるが、降ろすことはしなかった。

「ここで話し合いをするっす」

 灯りを点けていない、薄暗い部屋に入ってようやくヒトカゲを降ろす。床に降ろすと背の高いツバサはヒトカゲと目を合わせるのに苦労するので机の上を選んだ。生き物を机に乗せるのはいかがなものかと少し考えたが、あとで拭けばいいと思って。

「そんなに威嚇しないでくださいよ。可愛い顔が台無しっすよ」
『何が話し合いだ! ニンゲンに俺たちポケモンの言葉は理解できないだろ!』
「言葉が通じてる。そう言えば話し合いに応じてくれるんすか?」

 ヒトカゲは驚いて顔をあげる。お互いの青い目がかち合う。その様子に××は満足したかのように微笑み、続けた。

「あたしたち、幸風の血筋はポケモンの言葉が理解できるように育てられるんす」
『な、え、は?! ニンゲンなんかにどうして!』
「ポケモンには人間の言葉が理解できるのだから、その逆のことができてもおかしくないっすよ」

 その域に至るまでの努力は並大抵のものではないけれど。わざわざそれを誇示する必要もないのでツバサは言わずに、理屈とかは割愛させてもらうっす。と付け足した。

『だったら話は早い。俺はニンゲンが嫌いだ、憎いほどにな』
「色違いポケモンとして狙われてきたから、なんて単純な理由じゃなさそうっすね」
『…………』

 言いたいことを言うと、ヒトカゲはツバサに背を向けて口を閉ざした。言葉が通じても会話をする気はさらさらないということか。拒絶的な態度に苦笑を浮かべる。

「別にあたしのことを嫌ってもいいっすよ。それでもあたしは君を選ぶから」
『…………』
「君に固執する理由は2つ。極めて単純、そして自分本位。君を育て、そして君に認めてもらわなければ、あたしは兄さんと肩を並べることができないから 」

 ツバサは自分の野心を隠すことをしなかった。欲に塗れた夢を卑しいと思わず、周りに主張し続けてきた。そしてそれは今回もそう、自分の夢を叶えるために嫌でもついてきてもらう。堂々と自分勝手な言葉を宣言した。
 それに腹を立てた態度にヒトカゲは振り返ってふざけるな、と怒鳴った。その勢いで金色の炎が口から噴きでる。しまった、そう思った頃には時すでに遅し。ヒトカゲの頭に触れようと伸ばしていた手が高熱の炎を掠めた。やらかした、後悔の念に駆られて心配する言葉をかけようとした。しかし、ツバサの表情を見てその言葉を飲み込んだ。

『何笑って……!』
「尻尾の火を見て思ってたんすけど、やっぱり綺麗な炎っすね。暗いところによく映える」

 リザードンに進化したら更に綺麗なものだろう。深い黒の海に同化する墨色の身体、そこにぽつりと浮かぶ金色の炎。まるで月のようではないか。
 うっとりとした目でヒトカゲを見つめ、火傷を負った手で優しく撫で出す。思いにもよらない言葉を投げられたヒトカゲは動揺で手を払うことを忘れる。

「進化した君の姿を見てみたい。これがもう1つ理由っす」

 

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