オーキド博士に案内された先にいたのは丸まって眠っているフシギダネとゼニガメ。そしてその2匹を守るかのように両手を広げてツバサの前に立ちはだかる金色のヒトカゲ。

「この子が噂の色違いヒトカゲっすか?」
「ああ。炎の温度が高すぎるために危険ポケモン扱いされてうちに回ってきた子じゃ」
「なるほど」

 電灯の光を反射させてきらきら輝く金色の身体。雨上がりの青空のように透き通った瞳。そんな綺麗な見た目をした色違いのヒトカゲは小さな牙を剥き出しにし、ツバサを威嚇していた。後ろで寝ている2匹が起きる気配はない。

「トレーナーなりたての子に、このヒトカゲはあまり勧めれないのじゃがな」
「これも試練の1つっすから。兄さんが初めに手にしたポケモンもこのヒトカゲのように難があった子だったし」
「懐かしいのう。あの時もいろいろと大変じゃった……」

 これは父に与えられた2つ目の試練であった。1つ目は父が捕まえてきたミニリュウを立派なカイリューに育て上げること。これは周りの手助けもあってなんとかなった。そして2つ目はこのヒトカゲのように、人間に完全な警戒心を持ったポケモンの傷を癒すこと。一見、運び屋には関係ないことのようだ。確かにそうだ。ただの運び屋であるなら、こんなことをせずとも良い。だがしかし、

「幸風が運ぶのはただの荷物じゃない、幸せっすからね」

 ポケモン1匹を幸せにすることに苦戦するようでは当主以前に幸風の職員としても失格だ。それが父の口癖だった。ツバサ自身もその通りだと納得していた。ただ荷物を運ぶだけならそこら辺の運送業者にだってできる。幸せを運ぶことができる幸風だから、ツバサもその当主の座に固執するのであった。

「博士、ちょっとこの子と一対一で話したいんすけど」
「部屋ならあるが……」
「これで怪我をしても自己責任すから気にしないでください」

 それにポケモンの攻撃で怪我を負うことに関しては慣れっこだし。今思えば生傷の絶えないスクール時代だった。ポケモンの育成に関して考えることが真逆な友人たちは衝突する度にバトルを始めて、火の粉が飛んでくるし。FS行こうぜ、的なノリで手持ちのポケモンがいないというのに洞窟の中に突っ込む奴もいたな。そう遠くはない懐かしき思い出に遠い目をする。

「うん、あの子たちとつるんでるときに負う怪我より酷いものはないっす」
「そ、そうか」

 そうと決まれば善は急げ。ツバサは後ろの2匹を起こさないように注意を払いながら物音をたてないように近付き、ヒトカゲを抱きかかえる。当然のことながら抵抗をしようとするヒトカゲだが、ツバサの騒ぐとフシギダネとゼニガメが起きてしまうから静かに、という注意に黙らざるえなくなった。

「2人で仲良くお喋りするだけだから、そんな警戒しないでください」

 その笑顔で了承の態度をとるほど、ヒトカゲは友好的ではなかった。

 

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