大きなポケモンの翼によって発生した風によって草木が揺れる。地上に降りるとツバサは軽やかにその巨体から飛び降りた。

「凛雨、ここまで送ってくれてありがとう 」

 丸みを帯びた黄色い頭を撫でてやれば、凛雨と呼ばれたポケモン・カイリューは気持ちに良さそうに優しげな目を細めてツバサに擦り寄る。家を出る時間が遅かったからあまりここで時間をとれないとは思うものの、口を開こうとすると凛雨が自分も連れて行ってほしいと訴えるように見つめてくるものだから、ツバサは何と言って説得するか悩む。

「連れていきたい気持ちはあるけど、自分の力で旅をするには凛雨はレベルが高いんすよ」

 それでも連れて行ってほしいと言うように目を逸らすことはしない。ポケモンと触れ合い、育て方を学ぶために父より与えられた凛雨はツバサが初めて育てたポケモンである。一番最初がミニリュウというのは少々難易度が高いのではないかと友人たちが心配していた。そしてその心配している意味をツバサは身をもって知った。幻とされていたポケモン、ミニリュウは未だ発見される数が少なく希少な存在。そのため、狙う輩も少なくはない。そのせいで人間不信へとなった凛雨がツバサに心を開くにはかなりの時間を要した。
 凛雨を育てるにあたっての苦難の日々は他にもあるが、以下略とする。とにかく、ここで言いたいのは、その経過があったおかげで今では懐きすぎていると言って良いくらい凛雨はツバサの傍を離れなくなった。

「凛雨は初めてのポケモンっすけど、相棒ではないんすよ」

 その言葉に傷ついた表情を見せた。ツバサはその反応に申し訳なく思いつつも、続ける。

「あたし、相棒にするなら父から通して得たポケモンじゃなくて、自分で選んだポケモンがいいっす」

 それは、凛雨にとってはこれ以上にない悲しい言葉であった。自分が初めて育てられたポケモンなのに。傍にいた期間が一番長くて、他のポケモンよりもツバサのことを知っている存在となるのに。それでも相棒にはなれないなんて。これから出会う他のポケモンがツバサの隣に立ち、相棒として共に歩むことになるなんて。自分に悪いところがあるならばすぐに直すのに、それ以前の問題だなんて。アイアンテールで頭を殴られたかのようなショックだった。泣きそうな顔をツバサには見られたくなく、凛雨は背を向けた。

「りん」

 ツバサが名前を呼ぶ前に凛雨は翼を広げて飛び立つ。せめて最後に謝罪の言葉を口にして頭を再度撫でようと伸ばした手は虚しく宙を切ることになった。当分会わないことになるのに、この別れ方は喉元に小骨が刺さったかのようなもやもやを残すことになる。
 いろいろと考えは頭の中にあったのに、それを全部伝えることなく。傷つけるだけになってしまったことが悔しい。青空へと消えていく黄色い巨体をぼんやりと眺めながらツバサは唇を噛んだ。

「……だからと言って、ここで立ち止まるわけにもいかないんすけどね。あたしには時間がない」

 完全に雲に隠れてしまい見えなくなると、ツバサは凛雨が飛んだ方に背を向け、オーキド研究所を目の前にする。研究所からはまだ幼いポケモンの元気な鳴き声が聞こえてきた。スクールに通っていたときのことを思い出す賑やかさだ。
 折角夢に見た自分のポケモンを手に入れられるのだ。こんな暗い顔をしてはもったいない。気合を入れ直すように頬を叩いて顔をあげる。

「はーかーせ!」
「おお、ツバサくん! ようやく来たか!」
「すみません、兄貴と長話していたら遅れたっす」

 今からポケモン受け取って大丈夫っすか? そう尋ねればオーキド博士はなんとも言えない表情で大丈夫と言えば大丈夫だが、大丈夫ではないと言えば大丈夫ではない。という、微妙な返答をした。ツバサはこれから受け取るポケモンがどんな子か事前に聞いていたため、やはり難しい状態ではるのかと改めて確認をする。

「百聞は一見に如かずって言うし、実際に会わせてもらっていいっすか?」

 どんな子であったとしても、選ぶポケモンは変わらないのだから。そう言うツバサの目には期待しか宿っていなかった。

 

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