「この学園は表勢力と裏勢力の二種類に分裂しているの」

傷みを知らぬ真っ直ぐとした黒い髪を耳にかけてため息を吐く。窓から日差しがさしていてその仕草はよりいっそう神秘的に見える。前髪からちらりと覗く色素の薄い瞳が私をとらえる。

「表勢力、大きく分けて4つ。
一つ目は『生徒会』。会長・副会長・書記・会計・庶務。合計五人で形成されてる一番数の少ない組織。でもここが一番生徒内では権力があって一般生の協力を得ているわね。
二つ目は『風紀委員』。中等部各学年3人、高等部各学年5人、合計24人で形成された校則を全てとする組織。ただし教師の言うことに従順なわけではないわ。あくまでも校則、それ以外に従う気は皆無。
三つ目は『反教師』。最も人数が多く過激派。問題児や大人を目の敵にしているような者たちの集まり。学級崩壊ならぬ学校崩壊になるような行動ばかりをとってるの。生徒会と風紀委員で連携をとって鎮静を図ろうとはしているものの人数以上に個々の能力を突飛させた輩が多くてね……」

黒の太ペンできゅっきゅっと音を鳴らしホワイトボードに達筆な字を書き込むのは漆のような、彼女とはまた違う黒の髪を揺らした高校二年生にしては小柄な男の子だった。
書かれた図は分かりやすいと言えば分かりやすい。しかし根本的に分からないことがある。

「なんでこの学園はそんな勢力分けなんてしているのでしょうか?」
「さあ。理由なんてあげだしたらきりがないわよ」
「過激に暴れる人たちの主な理由は『気に入らない』ですけれどね」
「気に入らない……」

ふわりと微笑みかけられて私の頬は熱を帯びる。可愛らしい顔でそんなものむけられてしまえば当然の反応だと思う。特に男の子とあまり接さない人にとっては。

「裏勢力、っていうのはなんでしょうか?」
「これはあまり知らなくてもいいものなのだけれどね。危ないし、関わらないほうが身のためよ」
「そういうことなら尚更知っておいた方がいいと思いますよ」
「それもそうね」

彼女は一理あると言って頷く。それから視線を窓の外にむけた。私もそちらのほうに視線をむける。そして絶句。

「あれが裏勢力。暴力なんて当たり前。舌戦火兵戦化学戦科学戦義戦空中戦血戦死戦……あげだしたらきりがないわね。とにかくそんなものばっかり繰り広げてる連中よ」
「あの、いろいろとおかしいのですが。とりあえず普通の学生……ですか?」
「普通の学生?まさか。あそこら一帯の集まりは初等部から大学まで年齢問わずで組織を作ってるけれど全員が全員普通じゃないわ。
蝶を紋章とした『夢幻旅団』。総勢7名で一番団結力が強い組織。紋章から通称蝶と呼ばれているの。とにかくカラフルな見た目をしているわね。見かけたらすぐに逃げることを強く勧めるわ。
太極を紋章とした『夢心ファミリー』。総勢人数不明。おそらく裏勢力で最多でしょうね。彼女たちは比較的話が通じるほうだけれど蝶の人たちを見かけると周りにかまわず目の色変えて戦闘を開始するからある意味一番危険ね。
そして『血の悪夢』。名前からしてもおどろおどろしいわよね。一番謎の多い組織。一応学生に変わりはないんだけれどね……まったく、中二病なのもいい加減にしなさいよって話。
以上三組織をまとめて通称『3D』。基本的には夢幻と夢心でどんぱちやってるけどこれに悪夢が混じると最悪よ」

そう言って彼女は反教師の枠に裏勢力と書き加える。それが全て本当というのならば最悪だ、最悪すぎる。私は言葉がでず目を大きく見開く。

「なんて、一応ここ学園だしこんな風に分かりやすく説明したけれど……反教師=反政府ってことぐらい貴女も理解してるでしょう?」
「……でも、そういうことなら何故生徒会と風紀委員は反政府にはいらないのですか?」
「面白いところついたわね。その質問に答えるならそうね。私たちはそれなりに従順な振りをして相手の懐に入る気でいるのよ。近くまでいったら首をとる勢いでね」

猫のように目を細めるその仕草に私は背筋をぞっとさせた。ああ、なんて恐ろしいのだろう。この学園はこんな人たちばかり集まっているのか。政府はどうしてこんな人たちを敵に回すような真似をしたのか。……どうして私はその一人に混ざっているのか、理解しかねる。

「以上がこの学園の現状よ」
「そういうことはちゃんと入学パンフレットに書いていただきたいです」
「あら。ちゃんと学園名に表記されてるじゃない。泉常(いずみとこ)学園。音読みで読んでみなさい」
「……せんじょう」

そんな馬鹿な。それだけをヒントにここまでのことを想定しろというのか。無茶苦茶すぎる。
言いたいことが次々とでてきて喉もとでつっかかる。それを見た彼女は楽しそうに笑う。そして言った。

「馬鹿から天才までが集まった……否、なんらかの理由で政府によってこの地下に閉じ込められた泉常学園へようこそいらっしゃいました心より歓迎します」

涼騎冬夏さん、貴女はどのような理由でこの学園に閉じ込められたのかしら?
そう嗤う生徒会長の座につく彼女に酷く吐き気がした。

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テーマ「人外ファンタジー」
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