ひらり、はらり、
まだ日は真上を過ぎた程だと言うのにぼんやり薄暗い空は季節外れの雪を溢していた。昨日の晩より続く雪のせいで綺麗に石の敷き詰められていた大阪城自慢の庭は一面雪景色。寒い寒いとそれを見てぼやく人々の中にはしゃぐ姿が一つ。
「ゆきだ!刑部、ゆきだぞ!!」
「…先程より何弁も聞いておるわ、寒うて叶わん。ほれ早に部屋の中に入り」
「やだ!」
「風邪を引いたら太閣が心配するであろ」
かれこれ半刻程前から裸足で庭を駆け逃げる豊臣のじゃじゃ馬を数珠で捕まえると大谷は最早指定席となった己の膝に白を座らせる。元より名前の元になる程白い少女の肌は霜焼けて指先が真っ赤になっていた。乾いた手拭いで拭いてやると、そろそろ痒み出したのか白がもぞもぞと抵抗する。
「だからせめて草履を履けと言ったであろ?」
「かゆくなるなんて聞いてないぞ…」
「後でぬるま湯にでも浸けておけ」
粗方拭き終わり羽織を着せて、白の小さい体を腕の中にすっぽり納める。さらさらと流れる白い髪に包帯越しに頬を寄せれば腕の中からくすくすと笑い声が漏れた。
「あったかいな、刑部は」
「ヒヒ、暖めようとこうしても逆にぬしで暖をとってるようよ」
「ましろそんなにあたたかいか?」
「子がこれ程温いとは知らなんだ、良い火鉢代わりよな。重宝チョウホウ…」
「ましろは火鉢じゃなかろ!人間よ!」
「ヒヒ、ヒッ…はぁて聞こえぬ聞こえぬ」
ひらり、はらり、
薄く開いた障子から見える雪はまだまだ降り止む様子はなかった。先程白が作った足跡を埋めながら積もる雪に思わず身を寄せる腕が力む。
(あと幾年、こうして触れられるか)
「…ぎょうぶ?」
「…白よ、他の者に座るなよ。ぬしはわれの湯たんぽ故」
「だからましろは人間よ!火鉢でもゆたんぽでもない!」
「わかったワカッタ、ヒヒ、あぁ温い温い」
「ぎょうぶの馬鹿!!」
(せめて、死ぬ時まで独り占めさせておくれ)