「…刑部、こいつぁ一体どういう事だ」

「われも心が苦しいのよ、出来る事ならぬしの所になど置きたくもないが此処は上よかよっぽど安全故、苦肉よクニク」

「ぎょーぶ、この大きいのはだれぞ」

「…一体どういう事だ…」


暗い暗い地下の穴蔵。天下を狙ったが故に三成の手により枷を嵌められこんな所に押し込まれて早数ヶ月、久々に外部から人が来たと知らせを受ければ友と呼べるかも激しく怪しいが一応旧友と位置されるであろう人物、大谷吉継がやって来た。

奴は相も変わらず嫌みな物言いだったが、その時は異質だった。何故なら奴の膝には年端も行かぬ娘がちょこんと座っていたからだ。白い肌に白い髪、薄く紫がかった白い着物を着て何もかも白、白、白。土と篝火の色しか無い穴蔵には不釣り合いすぎる。

…この娘はなんなんだ


「この娘は豊臣白、太閣の娘よ。義理ではあるがな」

「娘だぁ!?それがどうして此処に…!」

「先も言うたであろ、此処が安全だからだ。今上では戦続きでな、城に攻め入る者も多い…掃除が終わるまで白には此処に居て貰う事になった。ぬしが知らぬ間に色々大変なのよ、ヒ ヒヒヒッ」

「状況をわからなくしたのはお前さんらだろう…!」

「はて、われは急に耳が遠くなった聞こえぬぞおー黒田ァ。…さて、白よわれはそろそろ行くでな、迎えに来るまで良い子で居やれ」

「…なんにちでもどるのだ」

「さてな、われが死なねば一月もかかるまいて。黒田よ、白になにか合った時はぬしの首が飛ぶと努々忘れるな …ではな」

「…」


刑部の背を見送ると、手に預けられた娘の大きな眼と目が合った。くりくりと開かれた目は篝火の灯りを反射して様々な色に光るが目の奥は深い黒は全てを飲み込もうと不安げに揺れては蠢いていて、長く見つめては吸い込まれそうだ。


「えっと、あー…小生の名は黒田官兵衛なんだがー…その、なんだ、」

「かんべ?」

「そ、そう!官兵衛だ!…白っていったな、その…暇なら小生と、遊ぶか?」

「…うん!」


それからはもう毎日が仕事片手間に白と遊べばいつの間にか一日が終わっていた。鍛工の奴らも最初は色々と疑ったりしてた様だが日が立てば皆が皆白を猫可愛がりするようになっていた。

広い穴蔵も白には狭い遊び場で、毎日其処ら中を駆け回れば泥だらけ、着物は途中から洗ってももはや意味が無くなって今じゃ白さは見る影もない。だが白自身の白さは土の中では一際目立って変わらなかった。


「おぉーい、白ー!かくれんぼは小生の負けだぁ、そろそろ出てこーい」

「白ー?何処じゃー?」


「…官兵衛さん、さっきから言おうと思ってたんだがよ、白ちゃんならさっきからあんたの背中に引っ付いて寝てるぞ」

「なにぃ!通りで見つからん訳だ…白はなかなかに知性派だな」

「はははっあんたが鈍感なだけだろー?」


仲間に背中から白を剥がして貰って抱き抱えれば、白はすぅすぅと鼻提灯を作って寝息を立てていた。時期的にはもう上は冬なのだろう、時たま入ってくる風に吹かれて白がびくりと体を振るわせたので篝火の近くに腰をおろせばじんわりと白の体温が自分にも伝わる。


「…あったけぇなあ」

「…んん、かんべ…?」

「嗚呼、お越しちまったか?おはようさん」

「おはようさん…」


目を擦る白の頭を不自由な手で撫でればじゃらりと鎖が響く。ひんやり冷たい無機質なそれが白には似合わなくて思わず溜め息をつけば白が首を傾げた。


「かんべは、悪いことをしたのか?」

「さぁなぁ…小生はやりたい事をやろうとしただけさ」

「そうか…くさり、痛くないか?」

「…少しだけ痛いよ、手首が擦れて赤くなる」


じゃらじゃらと鎖を遊ばせればそっと白の手が枷に触れた。それから小生の腕、手首、指と、まるで慈しむ様に、慰める様に。…本人にそんなつもりは無いんだろうがまさかこんな小さな子供に慰められるなんて、な。


「……小生の夢はな、此を外して星を掴む事なんだ」

「ほし、ほしは綺麗だからすきだ」

「小生も好きだ。だが此処は星どころか空も見えない、暗い暗い土の中だ」

「…」

「…見てえなぁ、空いっぱいのほうき星」

「…よし!」

「?」

「なら、白がみせてやる!白がお外に出たら毎日じめんに穴をほって、ここから空を見れるようにしてやる!そしたら、くさり外して白と星を見やるのだ!毎日、毎日!」

「…はははっ!そいつぁ良い!」


大人になった自分には、穴を掘ったって星が見えない事なんて分かっている。だが目の前の少女があんまりにも無垢な笑顔で言うものだから、思わずつられて笑いが出た。そしてつんと痛む鼻を隠す様に小さな体をぎゅっと抱き締めれば小さな腕が自分の頭を包むように伸びて、ゆっくりと頭を撫でる。やれやれ、お見通しか。


「かんべ、大人もないてよいのだぞ」

「…お前さんは将来気の利く良い嫁さんになるだろうな、にしても気が利きすぎだ」

「ふふ、はんべとおべんきょうしてるからな!」

「なるほど、合点がいったわ…ふあぁ」

「ねんね?」


ぐあ、と口を開ければ欠伸が出た。撫でられる頭と篝火と白の体温が睡魔を呼んで、心地良い倦怠感に飲まれて意識がぷつぷつと途切れる。瞼がとろとろ力を失って目が開けられない。目を擦れば白に「目が赤くなる」と遮られてますますもって睡魔に抗えなくなった。


「なぁ白…将来小生のコイツが外れてお前さんが良ければ、お前さん小生のー……に…」

「ん?かんべ?…もー寝たのか」


ぼやぼやと浮かぶ頭が何か言葉を発した気がするが、小生は結局睡魔に負けて身を委ねた。


土は雪に覆われる事を望む
(じんわりと暖かく地中深く染み込んで)

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