「ぎょーぶ!ぎょーぶ!」

「やれそんなに連呼せずとも聞こえている、どうした白」

「みこしに乗せやれー!」

「ん、来やれ」


白と呼ばれた少女は包帯に包まれた人物の言葉に顔を綻ばせる。そして手を借りながらも何とか宙に浮かぶ不思議な彼の輿に乗り込むと、ぽすんと座禅を組んだ足の間に収まった。

このまだ十にも満たない少女、名字を豊臣。覇王豊臣秀吉の養女である。先の戦にて血まみれで孤児になった(らしい)所を大谷吉継に拾われ、それ以来西の姫として自由気儘な生活を送っている。

大阪でこそ「西の姫君」なぞ大層な名で呼ばれて居るが、どこから広まったのか、初見で髪が返り血で赤くなっていたのが誇張され他の国では白は「西の悪姫」などとそれこそ御大層な名前で呼ばれていた。そんなこと本人は知る由もないのだが。


「みつなりは今日はまた"ざんめつ"か?」

「今日は城に居るはずよ、大方鍛練でもしてるのであろ」

「そっかぁ」


大谷の身体は業に犯されている。白もそれを知っている筈なのだが本人はさして気にする様子もなく、よく大谷に抱き着く。抱き着かれる大谷本人は、普段は人が近付く事すら良しとしないが白の場合だと別なのかさして拒絶するでもなくむしろ満更では無いらしい。だが抱き返す事は一度たりともしなかった。

城の一部では「白は悪姫だから業が移らない」など急に現れ普段から避け者にされている大谷になつく白に不信感を抱き陰口を叩く者も居る様だが、何者かによって消されている事も本人達は知る由もない。


「ぎょーぶ、白は団子が食べたい」

「われは甘ったるいのは好かん、他のにせよ」

「ぎょーぶはうぐいす食べればよかろー、白はあんこがいい」

「今の時期に鶯はなかろ、仕方なし、みたらしならまだ甘くはないか…」

「じょちゅうさんが今日は美味しいお茶入れるっていってたぞ」

「さようか」


少し肌寒くなった風が頬を撫でる。


「白よ」

「なんぞ?」

「…いや、何でもない」

「気になる」

「…」

「ぎょーぶ、」

「…ぬしは」


言葉を紡ごうとした瞬間、大谷と白を呼ぶ声がした。一つは鍛練を終えたであろう三成、もう一つは団子と茶を持った女中である。


「ほれ、早に行きやれ茶が冷める」

「…あとで聞くからな」

「われは急に耳が遠くなった、聞こえぬぞおー、白」

「!ぎょーぶのばかみつなりに言いつけてやる!」


あっかんべー、と舌を突きだし名を呼んだ二人の方へ駆けていく娘の背を見ながら、大谷は静かに独りごちた。

(無垢な娘よどうか穢れてくれるな、)

出会って間もない他人の心配をするなど自分らしくもない。己が人に願うは平等なる不幸、それは白とて例外では無いのだ。それなのにこんな気持ちになったのは。


(きっと、冬の寂しさのせいであろ)

寂しいのは風か、心か。

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