「BASARA」と大きくロゴと一緒に名前の掲げられた看板、大きな壁に貼られたディスプレイ。壁は窓を兼ねた透明なガラス貼り。携帯ショップとは思えない内装の豪華さ。

その人目を引く外装に町行く人々は遠目から眺めたり足を止めたりと忙しない。だが店の外から見える光景に箱型の機器の姿は無い。中に居るのは人だけで、時折外から覗く俺の姿に気付いた奴が此方に軽く手を振る。そしてそいつや他の奴の腕には皆変わらず「Bー920」等の数字が走っている。

…先ほどの言葉を撤回しよう。中に居るのは人の形をもった携帯だけである。


近年、どういう訳だか携帯が人の形を持つ、だなんて特異な現象が話題を呼んだ。人の形を持つ携帯の種類や原因は未だにわからないが、今俺が立っている「BASARA」と言う携帯ブランドはその現象を人工で起こすことに成功し、本来なら箱の形の見た目や機能で携帯とは選ぶ物だがBASARAブランドは完全に「人間時の姿」で機種を選ぶ。

細かい事は知らないがBASARAブランドの携帯はどれも一点物で同じ姿をした携帯は無いそうだ。先ほど言った腕に走る番号、それは人と人を象る機器を見分ける唯一の印。意思を持ち言葉を話し飯も食う『彼ら』はそれ故にとても高価で一般人にはとても手が出せない代物だ。自然に携帯が人形を為す現象はまだまだ極めて稀で、BASARAブランドを持つ奴も滅多に居ない。それを考えれば人になる携帯なんてレア中のレアでこの店の中も人で溢れているのが頷ける。そしていつまでも店の外で中を眺めている俺に、中の携帯達がちらちらと期待を込めた視線を投げ掛けるのも頷ける。…頷けるけど俺はただ休みの暇を潰しているだけであって、ましてや只の会社員。BASARAブランドを買う金なんかありゃしねぇ。

まとわりつく視線を振り切る様に紫煙を吐き出して腰かけていたガードレールから離れて歩き出す。…すると先程まで居た店の方からざわざわと声が聞こえた。そこまでは特に気にはしなかったのだが、いきなり怒号が聞こえて来たら誰でも振り向くのは仕方ないだろう。そして振り向いた瞬間、鮮やかな橙色の頭が視界いっぱいに飛び込んで来た。

(最悪の日曜日)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -