ごうんごうん、遠い異国の戦闘機が空を風切り雲を蹴散らし死体を作りて進みゆく。地はこんなにもごうごうと赤く輝いてゐるのに、空は鉛で色を塗つたかのやうに色濃ゐ。

あれが生み落とすは死の種よ、と静かに隣に腰掛けた男は笑ふ。普段は緩く曲げて居るのに今日は背筋をしやなりと伸ばして、黒に染められたスウツとは対照的に白ひ包帯の下の目はすう、と細められた。


「貴方はこの状況を解つてお有りか」

「解つてゐる。まあそう怒るな、ただ空より火薬が落ちて来て居るだけの事よ」

「その火薬で軍は毎日てんてこまひなのですが」

「われは知らぬ存ぜぬ、もう身は引いた筈よ」


ひ、ひひっ

特徴的な笑いを溢せば外でまた種が破ぜて死体と悲鳴を生む。そしてそれらは炎に飲み込まれて無に帰すのだ、静かに。静かに。


「ぬしも物好きよの」

「何がでせうか」

「われと心中など、ゑんまも笑うまひて」


男は静かに笑つて私の手を握る。それをそつと握り返せば驚いたやうに目を開いて、また細める。男の病の肌に手を寄せて目を合わせれば目を伏せて、意外に長ゐ睫がふうわり。


「貴方は覚えてなゐでせうが、いや、覚えてる方がおかしひのですが」

「…」

「私は昔、貴方と心中する約束をしたのです」

「まさか」

「私はまだ年端も行かぬ子供でありましたが、確かに、貴方と」


私しか知らぬ百も二百も昔の記憶。死したあの日に約束をして、転じたこの世でまた男に会った。


(あなたがさびしくないように、うまれかわったらあなたとともにわたしははてます)

(さようか、…さようか)


転じて初めて見た姿も彼方と変わり無く包帯に包まれてゐて、此方でも病を患って居るのかと溢したのは記憶に新しひ。早々にこの男の深くに根付く魔は切れぬ。


「…全く記憶にあらぬ」

「それでいひのです」

「生意気よ…」


男のとうに動かなくなつた足を撫でて身を寄せれば口と口が触れる。包帯越しに触れて居るのに酷く熱ゐ気がした。


「吉継殿、ではまた来世にて」

「…気が向ひたらな」


しにぞこなひ
(種が破ぜて彼岸が咲く)


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