「今回は当社の製品が桜田様に多大なご迷惑をおかけ致しまして大変申し訳ございませんでした」


とテーブルを挟んで目の前できっちり腰を折るのはBブランドの責任者だと名乗る血色の悪い黒スーツの男。下げた頭から垂れる長い銀色の髪に一瞬出かけた何処かで会わなかったかと言う言葉は飲み込んだ。

一方俺の隣に座る佐助は目の前の男を一心に見据えて顔色を悪くしていた。膝の上で強く握られた手は血の気を失って酷く白い。


「また後日粗品を持ってお詫びに向かわせて頂きますので…」

「はぁ、いや、それはどうでもいいんですけどね、」

「…と、言いますと?」


何処か申し訳なさに欠ける男の言葉を遮って頭をかくと佐助の手がぎゅっと俺の服の裾を掴んだ。


「桜田様?」


そしてなかなか話を切り出さない俺に男は痺れを切らしたのか蛇の様にねっとり俺の名前を呼ぶ。


「あー…佐助を連れてってさ、これから佐助はどうなる訳?」

「ああ…そのような事でしたか。その件はもうこのような事が無いように全ての記憶を一度消去し人格ベースを違う物に書き換えます。今回の「脱走」と言う思考プログラミングが本来無い物であり言わばバグの様な物ですので」

「…やだ、俺様やだよ、行きたくない、」

「お黙りなさいB-115、貴方の言葉など聞いていませんよ。…では桜田様、失礼致します」

「晋さんっ…!」


男が人の良い笑みを浮かべると外で待機していたのか、部下らしき奴が佐助の腕を乱雑にひいて引き摺る。抵抗虚しくズルズルと出口に向かう佐助は何度も何度も俺の名前を呼んで手を伸ばす。


…携帯のくせしてそんな顔で泣くんじゃねーよ



「…なぁ、」

「まだ何か?」

「此処で俺が佐助を買うって言えば、それは成立するか?」

「…問題はありません。ですが失礼ではありますがご存知の通り我が社の製品は高価でお客様には多少手に余る物かと」

「お宅に本当に誠意ってモンがあるなら、ちょっとくらい値引きして欲しいもんだね。アンタもあんまりこの件、大事にしたかねぇだろ?」

「おや、…ふふ、貴方の様なお客様は初めてです、ですが宜しいのですか?先程申しました通り、あの製品にはバグが発生しておりますよ?」

「構わねぇよ、だからそれ込みで安くしろ」

「…本当に、貴方の様なお客様は初めてだ」


クスクス、と肩を揺らして男が指示すると佐助は解放されて直ぐ様俺の方に駆けて来た。後日契約書を持ってくるそうで男達は撤収し、部屋には俺と佐助だけが残る。


「はぁ…とんでもねぇ買い物しちまった」

「……ごめんなさい、見つからないって、思ったのに」

「もう終わったから良い。それより飯」

「でも…!俺様晋さんに迷惑かけてる、お金だってかかるし、こんなの、…本当にごめん、俺様やっぱり帰った方が」

「…佐助、」


ポロポロ水を流す佐助の頭を掴んで肩に押し付けると佐助の手は俺の背中に伸びた。


「お前が居ないと誰が俺の飯を作る」

「…」

「お前の値段分、しっかり働け。美味い飯作れ、それでプラマイ0だ」

「…それ携帯の仕事じゃない」


ぽつりとされた反論は塞いでやった。何でとはあえて言わないでおく。


(料理は男の胃袋を掴む)

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