「ぇー…」


目の前には全身真っ黒な男。でも髪はその存在を一際異端な物だと主張するかの様に赤黒くて、髪より幾段か明るい線が男の輪郭を彩っていた


「えー…」

「…」


状況が未だに何となく理解しきれなくて、疑問の声をもう一度出せば首筋に宛がわれた日本刀にしちゃあ少し小さくて細めな刀をぐい、と押し付けられて存在を主張した。じくりと痛むのは切れたからだろう。鉄くさい。


「…」

「…」

「…」


良く良く見たらこの目の前の男は全身に小さく傷を負ってるみたいだった。かすり傷の様な物ばかりだがそれでもバイ菌が入ったら怖いんだぞー、と心の中で呟く。
そして良く良く見なくても男の格好は可笑しかった。


「とりあえず刀外してよーおにーさんは降参でーす」


めんどくせーから別に斬れても死ななきゃ良いやなぁ、と押さえつけられた手を動かして首筋から刀を押し退ける。
多少は斬れるかと思ってたけど男は俺が刀に触れる前に刀を浮かしてくれたので新たに痛みはなかった。


「起きてもいい?」

「…」


問えばすっ、と足音もたてずに男は自分の上から退いてくれた。

(なんだ、意外に話通じるじゃないの)

動く度にずきずきと痛む首を押さえたら生暖かい水の感触。手を見れば赤がぬらりと電気に照らされて卑しく光った。グロは映画だけで良いっての

とりあえずシャツで手を拭いて(血って洗っても落ちねーのよなぁー)さっきまで自分を押し倒していた相手を見やればぴしっと効果音が付きそうな程綺麗な正座で此方を見ていた。顔は兜の様な物で遮られているから正確には見ていた気がする。だが。


「えぇっと?君だぁれ」

「…」


流れるは沈黙。
突き刺さるは視線。

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