「小太郎ちゃん、雨ふる。洗濯もん濡れちゃう」
「…」
ばりんっ、
と煎餅を噛み砕いてテレビを見ながら告げれば、小さくこくっと頷いてベランダに向かうのはつい二週間前に我が家に来た男である。名前は風魔小太郎、歳は知らない。多分日本人。忍者。
ばりばりと口を動かして網戸だけ閉じられた窓に目を向ければ、網戸の向こうで赤毛の彼がせっせと慣れた手付きで洗濯バサミから衣類を取っていた。
こうして見ると、二週間前に殺されかけただなんて思えないよなぁ、なんて思いながら。静かな部屋には音が響く。ばりばり、ぱきっ。
すんっ、と鼻を鳴らせばやっぱり雨の匂いがした。
「…」
「ん、おつかれー」
洗濯物が入れられたカゴを部屋に持ち込むと、小太郎ちゃんもソファーに座る。重さでスプリングが軋んで、それが俺にも伝わった。
(そろそろ替えなきゃなぁ)
そろりと手を伸ばして、隣より少し離れた小太郎ちゃんの髪に触れてみる。小太郎ちゃんの髪は外の湿気を吸ったのか、いつもよりしんなり。でも指通りは良くて、するりと髪を鋤けば俺の指に釣られて小太郎ちゃんはぐらりと倒れた。
頭の着地地点は俺の太もも。
所謂膝枕。
「小太郎ちゃんのあまえんぼ」
「…」
別に初めてじゃあ無いのでぽんぽんと頭を撫でれば小太郎ちゃんの長い前髪の下の目がきょろりと部屋の隅の洗濯物カゴに向けられた。わかってるよ、この膝枕はごほーびなんだもんね。
特に腰に手が回るでも無く、小太郎ちゃんは頭を太ももに乗せてるだけ。男の太ももなんて固いだろうに。あ、でも昔の枕は固いんだっけ?なら丁度良いやなぁ。
頭を撫でてあげながら今まで何となく付けっぱなしにしてたテレビにようやく意識を戻す。が、特に面白い物がやってる訳でもなく新しい煎餅に手を付けた。
(あ、そいや小太郎ちゃんそこおせんべのカス落ちるよ)
(…)