広い部屋に散らかる動線に色とりどりの配線、プラスチック、液晶、その他諸々。今は見る影もないがそれらは全て元はパソコンやテレビであったはずのもの達。鈍り色の残骸の海、中心にて正座で申し訳なさそうに背を丸めているのは三日前に訪れた半裸の居候である。足元には木製で器用に作られたドライバーやペンチが落ちていた。


「…親(ちか)、俺言ったよな?直せないならバラすなって」

「うっ、す、すまねぇ…」

「どーすんだこれ元の形留めてねーじゃねぇか」

「やってるうちに止まらなくなっちまってよォ、ほんっとにすまねぇ!」


親が来た初日にトイレを解体されかけてから、もう何度目かわからないため息を吐く。がばっと土下座をする自称西海の鬼の姿を見るのは何度目だろうか、今までは何とか未然に防げたがここまでバラバラになってしまったら流石に修理にも出せないだろう。


「んまぁ…やっちまったもんはしゃーねぇ、水に流そう」

「! ほんとか!?」

「おぅ、問題は俺よか就ちゃんだ」

「毛利が…?」


そう、何を隠そう親が解体してしまったのは俺の仕事用のパソコンではなく、さっちゃんが帰ってからほぼ就ちゃんの私物と化していたノートパソコン。暇があれば就ちゃんはパソコンを弄っていたのできっとこの残骸のデータの中にはたくさんのお日様の画像が入れられていたであろう事が予想出来る。幸いにも就ちゃんは今珍しく昼寝をしているのですぐに親に雷が落ちる事は無いが、まぁ怒られるのは確実だろう。


「…」

「…」

「…俺、殺されっかな」

「骨は拾ってやるよ、とりあえずこのゴミをどうにか片付けー…」

「? 仁?どした?」

「あ、はい、悪い親、おじちゃんちとトイレ行ってくるわ」


親の背中の後ろは寝室のドア、そしてそこに立っているのは言わずもがなあの方で。目で「席を外せ」と告げられそそくさと駆け込んだトイレにまで響く悲鳴に聞こえないふりをして俺は水洗レバーを回した。南無三。



「随分長いトイレであったな」

「いつまでこもってたら良いのか分からんくて寝てた…終わったの?」

「アレならゴミとひとまとめにしておいた」

「勝手に殺すんじゃねぇ!」

「勝手に起きるでないわ」


パソコンの残骸の中に横たわっていた親が体を起こすとそれを許さんと就ちゃんが腹を踏みつける。親はだいぶコテンパンにされていたが就ちゃんはまだまだお怒りらしく、親を椅子にしたままぽいぽい大福を口に投げ込んでいる。


「んーあのパソコンも古かったし丁度良いべやな、就ちゃん、親も支度しな。デパート行こう」

「外行けんのか!?」

「おう、ついでにお前さんの服買いに行かんと流石に小太郎ちゃんのスウェットだけじゃなぁ…就ちゃんもなんやかんやまだ外行った事無かったし丁度いいっしょ」

「新しい本を所望する」

「はいよ」


小太郎ちゃんよりもガタイが良いせいで若干服のきつそうな親に着方を教える。就ちゃんは最早慣れた様子で既に着替えを終えているが着てる服はさっちゃんと兼用だったの少し大きく、好い加減就ちゃんの服も買ってあげた方が良いだろう。ケツポケットに財布と煙草をねじ込んで、とりあえず親が俺の車を壊さない様に脳内で作戦を練った。




(就ちゃん親を止めて下さい報酬は大福を納品します)
(この前見た取り寄せの高級大福しか認めぬ)
(うぉぉおおすげえぇええ鉄の猪だ暁丸にも取り入れてェ!!!!!!)

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