暖かい夢をみた。
暖かい手に頭を撫でられて、俺の名前を呼ぶ声を聞いた。微睡の中で俺に触れる手が気持ちよくて、眠くて眠くて、目は開けられなかったが悲しいような、寂しいような、ほんの少しだけ幸せそうな声で俺を呼ぶ声がした。
じきに手が頭から離れて、手の主が俺に向かって何か呟いた気がしたがそれは酷く小さい物で、何を言ったのか尋ねようと手を伸ばせばだんだんと睡魔は薄れ手の主とは別の喧騒が俺の手を引いた。
「…っだぁああああうるせー!!!」
がばりと布団から飛び起きれば時刻はまだ十時前。やたらガタガタと騒がしい音は寝室とはドア一枚隔てたリビングから響いている。当然、この時間にベッドに居るのは俺だけなので先に起きたさっちゃんと就ちゃんがどうせPCを巡って喧嘩でもしてるのだろう。あれ程じゅんばんこに使いなさいって言ったのに!!
「こらー!朝っぱらから喧嘩しな…」
「いでででででで!!!首っ、首が抜けるッ」
「…起こしたか堺、此奴は我に任せて今一度惰眠を貪るが良い」
リビングへと繰り出した俺の予想は正解から近くもなく遠くもなく。喧嘩の相手はさっちゃんでは無く半裸の厳ついお兄さんだった。そして俺が見るからにこれは喧嘩では無くリンチと呼ぶ物だろう、タップをかけるお兄さんに構わず就ちゃんはキャメルクラッチをかけ続けて居る。と言うか突如現れたお兄さんよりもこんなにアグレッシブな就ちゃんを目の当たりにした事の方が驚きが大きい。
「就ちゃん奴さんギブしてるから!」
「…チッ」
「し、死ぬかと思ったぜ……いきなり何をしやがんだ毛利!」
冷蔵庫のプリンを餌になんとか就ちゃんを引き剥がすと、酷く噎せた後、大きく息をしてお兄さんは落ち着きを取り戻した。就ちゃんの事を知っている様子からしてきっとこの子も戦国から来たんだろう。…あとそういやさっきからさっちゃんの姿が見えない。
「猿なら朝方彼方に帰った。猿からの伝言は朝餉の味噌汁はコンロ、昼は昨晩の残り、夕餉は自力で作れと」
「…ははっ、さっちゃんらしいなぁ」
さっちゃんが知らん間に帰った事に少しだけしょんぼりしつつ、先ほどから家電にやたら目を輝かせて居るお兄さんをなんとかすべく、俺は口を開いた。
(まずは身辺整理と自己紹介からかな?)
(聞かずとも構わぬ、捨て置け)