「…真田の旦那、どうしてるかな」


ポツリと零された呟きは心配を含んだ声色で、滅多に聞かない声に思わず新聞から顔を上げればさっちゃんが焦った様に手を振った。


「『向こう』の友達?」

「…友達って言うか、上司かな。俺様いきなりコッチ来ちゃったから、どうしてるかなって。いくら向こうとコッチの時間軸が違ってもそれはまだ憶測の域だしね、心配しちゃう訳よ」

「あー…なるほどな」


納得して頷けばさっちゃんは「今色々終わったばっかでウチの国参ってるしさ…」と溜息と同時に肩を落とす。今まで忘れていたが此処に居る彼らは戦国の時代から来たんだ、いずれは帰らなきゃならないし向こうに大事な人も居るんだろう。


「就ちゃんは?なんか向こうに心配な人とかおらんの?」

「…愚問よ」

「無駄な質問って程居るんか、いいねぇ」

「たわけ、我にはそんな物必要無いと言っておるのだ。我には中国と日輪さえあれば良い」

「さいですか…」


冷たく言い放たれたそれは本気でそう考えて居るのだろうと思えた。が、ふと見えた就ちゃんの目からはうっすらと何かもう一つ意味が感じられた。でも俺にはまだまだ就ちゃんの考えている事が読み取れない、まだ就ちゃんが此処に来て十日程にせよ少し悔しい。


「…そういや向こうって戦国なら戦とかしてんの?」

「あー…うん、まぁね。あんまいい話じゃないけど」

「天下分け目の大戦が終わったばかりよ、」

「まじで!?あれか、関ヶ原〜とかそんなんか」

「! なんで仁さん、関ヶ原なんか知ってるの…」


俺が関ヶ原を例に上げた瞬間二人の表情が変わる。何かまずい事を言ってしまったかとたじろげばさっちゃんが落ち着く様に息を吐いた。


「えっと、此処が未来なんだから関ヶ原を知ってるのは当たり前なんだろうけど、此処と俺様達の戦国は確か違う世界のなんだよね?…コッチの過去にも関ヶ原があった、の?」

「え、まぁ…おにーさんあんまり歴史強くないからアレだけど、徳川が勝って幕府が云々ー…って奴だよな?関ヶ原で誰が負けたのかは知らんけど、一日で決着が付いたとかどうとか」

「フン、此方の世でも徳川が勝ったか…気に食わん事よ」

「向こうにも徳川さんが居るんだなーなんだっけ、徳川幕府は800年続くんだっけか」

「はっぴゃくねん!?うわぁ、こりゃあ石田の旦那が聞いたら怒り狂いそう…」

「もう彼奴はこれ以上ない程狂ったであろ」


うろ覚えの歴史を脳内から探ればさっちゃんは呆れた様に笑って就ちゃんは興味が無いとばかりに煎餅をかじる。

そういや天下分け目と名の付く程の戦なら、この二人も徳川とその相手側のどちらかに組みしたんだろう、でも就ちゃんは此処へ来た始めさっちゃんの事を敵国の忍者だと認識してた。…どういう事だろ。


「…我らは西に着いた。徳川の敵よ」


俺の考えている事を見透かしたのか、就ちゃんははっきりそう言うとあとはさっちゃんに説明を投げてまた煎餅を口に運ぶ。


「えっ、でも普通戦って負けたら死ぬんでねぇの、なんでさっちゃんも就ちゃんも此処におんのまさか幽霊」

「うん、違うからね、俺様生きてるからね。それがさー徳川ったら『ワシ一人で日ノ本を統べるのは無理だ。国とは絆でどうたら』とか言ってお偉いさんをだぁれも殺さないで国に返して、今はそれぞれ自国の立て直しに大忙しだよ」

「良い人だなー」

「どうだろね、情けをかけられたーって思う国もあるし色々じゃない?まぁ俺様なんかは生きてるだけで儲けもんだし、こうして仁さんにも会えたしねー」


ねー、と肩口に寄りかかるさっちゃんを撫でればへへっと笑い声がもれる。

さっちゃんも就ちゃんも大事な時にこっちに来たのなら、これから先も色々向こうの世界から来るかも知れない。むしろ、彼らは休む為にこっちに飛ばされて来たんじゃなかろうか。一番始めに立てた憶測は俺の中でもう確信の様な物に変わっていた。


(行ってみてぇなー戦国、)
(貴様なぞ五分で終いよ)
(仁さんには無理だねぇ)
(二人とも酷くねぇ!?)

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