call my name
響き渡る男共の叫び声。それは悲鳴か雄叫びか、風に乗って流れてくるのは火薬と鉄くさい血の匂い。広い更地に倒れた骸はただただ曇天を見開いた眼に映すのみ。すん、と鼻を鳴らせば空は今にも泣き出しそうだった。
…帰ってきた、のか
かすかに痛む頭を押さえて眠る様に腰掛けていた樹から立ち上がれば、見慣れた戦の風景が目前に広がる。身に纏っているのはシャツでは無くズシリと存在を主張する甲冑。背中には一対の刀。今まで開けていた視界は面宛によってごく限られている。
…まさか今まで夢を見ていたのだろうか、否、夢の様な生活ではあったがあれは確かに現実であった。
此処とは全く違う、遠い未来での生活。
兜の上から軽く頭を撫でればあの男に撫でられる様な感触がする。くすぐったいような、虚しいような。
「えぇい風魔!風魔は何処ぢゃ!!昨日より姿が見えんぞ!」
風に乗って遠くの陣営より雇い主である翁の声がした。ぐるりと首を回して肉を解せば骨の軋む音がしたが駆けるには問題ないだろうと翼を広げる。
空を駆けながら思うのは、最後に交わした言葉の事。
「(また、いつか会いませう)」
「…うん、絶対、いつかまた、絶対」
己がもう彼方の世に行く事は無いのは消えゆく中で感覚的に分かっていた。なのに何故咄嗟にあんな事を書いて告げてしまったのかわからない。
そして、男の返答に少しの期待を感じている己が、今は一番わからない。…否、分かっているが、形容する言葉が見つからないのだ。
早く会いたいと、切に思う。
始めて感じる、不思議な思考。
「(…仁、)」
掠れ声にもならない名前を口に出しながら、己は今だに風魔と名を叫ぶ人物を目指した。