「…我に貴様らと床を共にせよと申すのか」

「うん、だってこれ以外に布団ねーんだもん。因みにソファーは却下」

「一回寝ちゃえば慣れるよ毛利の旦那ぁ。どうせ俺様とアンタの真ん中に仁さん挟むし寝首なんて掻くつもりないしさ」

「断る。我はソファーで寝る」

「それこそ断る!お客をソファーで寝かすのは俺の信念に反する!就ちゃんだってお昼ベッドで寝て気持ち良かったろ?ベッドのが良いだろ?」

「…」

「んじゃあ…ベッドで寝たら明日1日就ちゃんの我が儘何でも聞くよ」

「!…貴様言うたな?その言葉明日になって忘れたとは言わせぬぞ」

「ちょっと仁さんそんなこと言っちゃって大丈夫!?毛利の旦那はかなり人使い荒いよー?」

「…良心ある程度にしてね就ちゃん」


そんなやりとりのあった昨夜、いつも寝る時胴回りに巻き付いていた小太郎ちゃんの腕が今日は無いことに、小太郎ちゃんが本当に帰ったのを実感しつつ眠りに着いた。

そして今朝。


「起きよ、起きよ堺」

「う、ん……?」

「貴様は今日一日我の駒であろう、さっさと起きよ」

「……今何時よ」


ぼやぼやと半分も開かない瞼と格闘しつつ携帯のディスプレイを見れば時刻は朝5時前、なんといつも俺が起きる時間より6時間も前である。時計を見た瞬間早速昨日めったやたらに一日我が儘を聞くなんて言ったことを俺は後悔した。

そして何処にそんな力があるのか、就ちゃんの細っこい腕に首根っこを捕まれズルズルとベランダまでひきずられた。途中、いつもどおり早起きなさっちゃんがこんな時間に起きてる(起こされた)俺を見てびっくりしていた。


「おぉ…日輪よ…」

「……さみぃ」


昼はそうでもないが半袖で出るには朝は多少肌寒く感じる。ピンと張った空気が晒された肌を刺して嫌が応にも意識は睡魔の手を逃れ覚醒の方へと向かう。

就ちゃんは両手を大きく広げてお日様の光を全身に浴びていた。俺は後ろで煙草を吸いながらそれを見ていたがなんとなく俺もやってみたくなって隣に並べば就ちゃんはチラリと視線を此方に流してまた太陽を見た。どうやらお許しが出たらしい。


「にちりんよー」

「…」

「うーむ、なかなかに気持ち良いな…」

「…ふん、少しは貴様も日輪の良さを理解したか」


寒さにも肌が慣れ、目もすっきりとした。見よう見まねで就ちゃんと同じポーズを取ればふん、と鼻を鳴らして何処と無く就ちゃんは満足げだ。心境的には中々なつかない猫を散々構い倒してやっと向こうから近付く様になってきた感じである。

だがここで焦ってはいけない、せっかく微妙に築かれた関係を壊す訳にはいかんのだ。今すぐにでも撫で回したい気持ちをぐっと堪えてそろそろ日光浴に満足した様な就ちゃんを連れてリビングに戻った。


「お疲れ様仁さん」

「おーう、あんがとさん」

「この黒い水は何ぞ」

「コーヒー、って言う苦いやつ。苦いの苦手だったら砂糖入れな」

リビングではさっちゃんがコーヒーを入れて待っててくれて、普段はあまり食わないが今日はかなり早めの朝飯を食うことにした。さっちゃんが朝飯を作ってくれてる間に就ちゃんにもコーヒーを入れてやる。すると、今まで鉄仮面だった彼の眉間にコーヒーを一口飲んだ瞬間恐ろしく皺が寄った。…次からは砂糖とミルク入れてあげような。


(…美味也)
(こら就ちゃん角砂糖はお菓子じゃありません!)

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