「ほらほら小太郎ちゃん、風呂入る前に寝たらあかんよー」

「…」

「いやいやしてもだぁめー。それに風呂洗い今日は小太郎ちゃんが当番だろー?あっこら膝枕はダメだって!」


時刻は22時をあと数分で迎えそうな所。今まで寝転がってテレビを見ていた小太郎ちゃんが目元を数回擦って完全に寝る体勢に入っていたのを慌てて引き留める。すると緩くいやいやと言わんばかりに首を振って小太郎ちゃんは俺の太ももに頭を乗せて押し黙る。

いかに体を揺り動かそうと退く気配は無く参ったな…と溜め息をつけばさっちゃんがおずおずと口を開いた。


「…前から思ってたんだけどさ、風魔と仁さんてそういう関係なの?やけに仲良さげだけど」

「超が付く程健全な関係だっつの!小太郎ちゃんが甘えたなだけだわ、つかほらもー小太郎ちゃん起きろって」


未だに人の足を枕にして動かない赤毛をわしゃわしゃと撫で回せばそのまま手を捕まれ動きを封じられる。ちろり、と髪の隙間から見えた目は楽しそうに細められている。…この甘えんボーイめ…!


「こんにゃろ、こうなりゃ強行手段だかんな!そぉい!」

「…!!」

「膝枕して欲しかったらお風呂洗ってさっちゃんに入り方教えてからになさい!明日の朝入るなら今日は入らんでもいーから、な?」

「…」


強行手段と称してソファーから立ち上がれば自動的に小太郎ちゃんの頭は膝から落ちて眠りは妨げられる。小太郎ちゃんは目で不満を訴えたが無視して風呂洗いを命じれば渋々ではあるが風呂場へと向かって行った。


「お疲れさまー」

「子供が甘えん坊だと大変だなぁ母さん」

「そうねあなた、って何言わせんのさ」

「さっちゃんが自分からノったくせに!」


小太郎ちゃんが退いて空いた隣に今度はさっちゃんが腰掛ける。ポチポチと面白そうな番組を探してチャンネルを回せばさっちゃんがじっと俺の方を見ていた。照準は太もも。


「…膝枕すっか?」

「あ、いや、ちがっそういうんじゃなくて、…あの風魔が誰かに膝枕されるのとか想像もつかなくて」

「あのっておま…そういやさっちゃん最初来た時から風の悪魔だの何だのって随分御大層な呼び方してたよな、アレってなんなん?」

「…いやまぁ一緒に暮らしてる仁さんにこんなの言うのもなんだけどさ、風魔ってアレでもあっちの世じゃ"伝説"なんて呼ばれてるそりゃもう有名な忍なのよ?」

「…マジで?」

「ホントホント。化け物みたいに強いし術は見たこと無いのばかりだし速いしで俺様昔殺されかけたりもしたんだから!」

「さっちゃんそれで良く一緒に住もうと思ったな!」

「忍の世界でいつでも死は隣り合わせだかんねぇ、死なないだけ儲けモンさ。…ちょっとちょっと暗い顔しなさんな、此処じゃそんなの気にしてないから!ね?」

「うん…」


さっちゃんが焦った様にあたふたするのでずるっと鼻をすすった。


「…まぁでもだからこそ俺様今の風魔がちょっと信じられないのよねー、そもそも何で膝枕なんかしたのさ?」

「あー…小太郎ちゃんが世話になるから何か手伝いさせろってんでふざけてご褒美にー、って膝枕始めたら気に入られて今に至る的な?」

「ふぅん、ご褒美ねぇ…んじゃ俺様にもご褒美ちょーだい!ご飯作ってあげたっしょ?」

「おじさんにあげられる物なんてこの身一つしか…!さすけ様嗚呼オヤメニナッテー!」

「よいではないかーよいではないかー」


自分の体を抱いてわざとらしく高い声を出せばさっちゃんは手をわきわきさせながら悪人顔で迫ってくる。イケメンが台無しだぞー。


「よいしょ、隙ありっ」

「うぉう?さっちゃん…?」

「風魔いっつも仁さんの右足を枕にしてるから、左は俺様にちょーだい?あげられる物は身一つだけなんでしょ?」


一頻り茶番をするとぽすり、とさっちゃんが俺の足に頭を置いた。いきなりで頭に?を浮かべて首を傾げればさっちゃんはイタズラが成功したような顔で笑った。それにつられて笑えば「仁さん筋肉無いから柔らかいねー」だなんてほざきやがったので頬をつねりあげてやった。


さっちゃんが俺の足から引きずり落とされるまであと3分。


(…)
(小太郎ちゃんおかえりー…っ!?)
(いってぇっ!!ちょっと今殺る気だったろアンタ!(風魔嫉妬深!!))

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -