(佐助視点)
アレはなんだ?
「何で風の悪魔が…!?」
此処は何処だ?
「とりあえず、えーと、…知り合い?」
突然飛ばされた元居た日の本とは異なる日の本。後に堺仁と名乗る男と横には以前天王山で同郷のくの一と共に己を殺そうとした風魔小太郎が居た。部屋と思わしき場所に入ってきた瞬間は忍装束じゃ無かった為に反応が遅れたが、血を被ったかの様な髪と「忍」の枠を凌駕した動きには見覚えがあった。
「君の名前は?」
「答える義理なんざないね」
「…」
「猿飛佐助くんかぁ、かっけぇ名前だなぁ」
「ちょっ、風魔!」
ただ、見覚えがあっただけであってどうしても俺様にはアレがあの風の悪魔には見えなかった。だって、奴がこんなにも柔らかい風を纏わせるだなんて、これがあの天王山の時の血臭にまみれた風と同じだなんて、そんな。
茶色い紙の様な、布の様な、変にベタベタした縄代わりの物で体を拘束された後に男は俺様の前に座って困った様な顔で説明をし始めた。風魔は後ろで男には見えない角度で刀を突き付けている。刀にだけはきちんと殺気が隠っている辺りそんなに目の前の男が大事なのか、牙はまだ抜けちゃ居ないのか。
「えーと、此処は君が居た時代から400?500?まぁそのくらい時代が進んでてだね…」
「は?何それ嘘つくんならもっとマシな…ちょっとちょっと食い込んでるって!」
「小太郎ちゃん刀は無し!な!?な!?早くしまってしまって!」
「(伝説の忍をちゃん付けって…!しかも言うこと聞いちゃうのかよ!!)」
この男は風魔の新しい主なのだろうか?俺様に敵意が無いとでも思ったのか、男が拘束具を音を立てて剥がすと同時に後ろに回り込んで首に何故か没収しなかったクナイを突き付ける。風魔もそれに続いて俺様の首にクナイを突き付けるが男が命じるとあっさり引いた。
――…やっぱり主か?
そしてこの後、不思議な絵が動く箱に誰もが名乗れる名字の事、この男が二週間もこの風の悪魔と暮らしていた事にも驚いたし風魔が二週間も男の名を知らなかった事にも驚いた。そしてまたがむてーぷ、とか言うやつで縛られたのは確実に八つ当たりだろう。覚えとけよ風魔…!
土下座をする男にそっぽを向く風魔。異様過ぎる光景が暫く続いた後いよいよ話が進まねぇと助け船を出してやれば変なあだ名を付けられるわ男の泣き真似に対しての風魔の静かな怒気に鳥肌立つわほんとに散々。ほんっとに散々!風魔が感情を出すだなんて事にも裏がありそうで鳥肌が立った。
「…」
「おぅ!わかってる小太郎ちゃん抹茶しか食わないんだもん…いひゃひゃひゃひゃ!」
思考を戻して視線をまた寄越せば風魔が男の頬をつねっていた。あれ?主じゃないの?あれ?でも堺は風魔の腰に普通に抱き着いてるし風魔も普通に触らせてるし…あれぇー?
「…お取り込み中悪いんだけどさー、助けてあげたんだからこのベタベタどうにかしてくんない?」
「あ、わりぃさっちゃん」
がむてーぷを外されながら最終的に諦めて項垂れれば男はからからと笑っていた。俺様、さっちゃんとか呼ばれたの初めてだわ…複雑…女の子にならまだしも男に呼ばれるって…!しかも明らか俺様より五つは年上だし。
「んじゃ元々買い物行くついでにさっちゃんの服とかも買いに行くべや。あー…でもさっちゃんなら俺の服着れるかな?」
「…未来は服も全然違うんだねぇ」
「…」
ようやく自由になった身で恨みがましく風魔を見やれば何も覚えてないと言わんばかりにそっぽを向かれた。こっのやろう…!
「?…んまぁな、んじゃさっちゃんコレ着てみ。頭と腕通せば良いだけだからさ」
「はいはーい」
なんか流れ的に堺さんは俺様の面倒見てくれるみたいだし素直に言うことを聞くとする。風魔は殺されかけた事もあってまだ気に食わないけどまぁ仲良しこよしの真似事してやるよ。堺さんから渡された此方の世での着物を愛想よく受け取って着替えてくれば、堺さんは一度笑顔になった後大きく叫んだ。
(くそがぁあ!小太郎ちゃんしかりさっちゃんしかりなんでそんなに現代服が似合うんだよぉお!!)