「なぁ、霧野は俺といて楽しいか?」

意味が分からない。
一言で表せばそれにつきる。何故開封一言目がそれなんだ?主語を話せ、主語を。しかしそれで分からないわけでもない。多分、今の俺たちの関係の事を言っているんだろう。
確かに、今の俺たちはただの同級生の様によそよそしく必要なことがなければ話すこともない感じで、最早それは恋人と呼ぶには違うような気がした。

「俺は霧野と一緒にいたいけど、霧野はそうじゃないだろ?」

何故そう言ってくれるのか?俺自身何でこんなことを言われているのか分からなくなってきた。腕の痛みは更に増していったが、それでも俺は胸がズキズキと痛む方が苦しいと思った。

「…よくは分からないが、何故そんなことを言われるかが分からない。大体、俺と一緒にいたくないのは神童の方だろ?」

そう言えば神童は凛々しく大きな目を更に見開いた。それでいてうっすらと水の膜が張っているような気がする。それでも俺は、止めることが出来なかった。

「神童は可愛い女の子たちにモテるし、男の俺と付き合うことだってない筈だ。それとも、俺の容姿が女の子みたいで付き合ったのか?それは残念、俺は正真正銘の男だよ。容姿が女の子そっくりでも、男って事実は変わらない。」

そう、俺の容姿が女の子みたいでそこに惹かれたのならそれは勘違いで、俺が一番言われたくないことで、特に神童には言われたくないことだった。
それでも、俺が神童を好きなのは変わらなくて、神童が親友と恋人の境を勘違いしていて俺と付き合っていたなら、

俺は別れようと思っていた。

そう思えば俺の目にまで水の膜が張ってくる。分かっていて覚悟もしていて、それでも心だけは付いてきてくれなくて今にも泣きそうだったが、神童が泣きそう、泣いているときは俺は泣かないと決めているから、少し唇を噛んで耐えた。
神童は俺の腕を掴んだまま離さない。なにも話そうとしない。やっぱり勘違いだったのか、そう思った。やっぱり女の子のほうがいいのだ、俺は見た目が女でも本物の女の子にはなれなくて、嫉妬してたなんて言えない。言ったら全てが終わってしまいそうで、でも言ってしまった。醜い独占欲。男の俺が神童が好きな女の子に嫉妬なんて醜い、神童が俺を親友以上好いてくれていることなんてないのに。

「…本気か?」

ぽつり。
聞き取れるか聞き取れないかの境目の声で言われる。

「?」

俺は首を傾けるくらいしか反応できなかった。いきなり本気なのかと言われても分からないものは分からない。それが神童の怒りになることは知らない。

「俺が親友以上好きじゃないとか、霧野を女の子と思って付き合っていたのかと、そう本当に思っているのか…!?」

親友以上好いてくれることがないと思っていたことが何故分かったのか分からない。相変わらず神童の目が潤んでいるが、その目には決意を宿らせていた。

「俺は親友としても好きだけど、それ以上に一番愛しい人として愛している。確かに霧野は女の子みたいな容姿で可愛いよ、でも、そこら辺の女の子よりも霧野が一番可愛い。」

少しと言わずに思いっきり恥ずかしい単語が出てきているのは俺の気のせいじゃない。それでも、親友以上好きで恋人として愛していると言ってくれたのが、嬉しかった。

「言うつもりはなかったけど、霧野は無自覚だ。雷門中のサッカー部全員から好かれていて愛されて、気付かない、雷門中だけじゃない、他の学校のサッカー部からもたまにだけど、そんな風に見られている。中には疚しいことを考えている奴だっているし、それでも、霧野は気付かない。本当に鈍感だからな。」

目は相変わらず潤んでいたけど、顔は真っ赤で照れ臭そうだ。視線を合わせてくれない。相当この事を言うのが恥ずかしかったのだろう。だから言いたくなかったとか、言っちゃったとか、色々呟いている。神童も覚悟を決めたんだ、俺も覚悟を決めて腹を括ろう。




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