「ああああ!もう!!!!!」
「煩いぞ名前」
「いやなんであんたそんなに冷静なんだよ!」

単刀直入に言うと、狡噛先輩の身体と私の身体が入れ替わった。

そんな嘘みたいな話あるかと言われるとそこまでなのだが、これは本当の話だ。

私がいつものように執行官の宿舎から刑事課へと出勤したときのこと。
今日は半年に一度の備品点検日で、刑事課フロアに様々な荷物が置かれていた。珍しくアナログコードが床に転がっていたのに気付かず、私は足を引っ掛けてしまったのだ。
たまたま私の前にいた狡噛先輩の後頭部に私の頭も直撃、気がつくと中身が入れ替わっていたのである!

「ちょっと狡噛先輩!私の身体で煙草吸わないでください!肺が真っ黒になるわ!」
「煩いな、元々はお前のせいだろうが。つーかお前こそ俺の身体で女のジェスチャーするなキモい」
「キモいってそれ私に言ってるんですか!それとも自分に言ってるんですか!」
「大変なことになりましたねぇ…」

常守監視官が困ったように笑いながら、私と狡噛先輩にコーヒーを煎れてくれた。ああっ、常守監視官まじエンジェル!

「宜野座さんにも一応報告はしたんですが、信じてくれませんでした」
「あいつらしいな」

私の身体でふんぞり返りながら足を組む狡噛先輩(身体は私)は、小さく息を吐いた。煙草吸えなくてイライラしてるらしい。ざまーみろニコチン中毒ー!

「なんかマンガみたいな話だよなぁ、入れ替わるとかさ!名前とコウちゃんおもしれー」
「何も面白くないぞ、縢」
「はは、名前態度でけー」
「それは私じゃなくて狡噛先輩だからね」
「名前、俺の身体で私とか言うなキモいから」
「うるせーなあんたもキモいよ!!そこはかとなくキモいよ!」
「お前意外と胸あるな」
「うわあああああサワルナアアアアア!!!!!」

ニヤリと笑って私の胸を触る狡噛先輩にチョップすると、大きな声出さないでください煩いですと朱ちゃんに真顔で言われた。
もともと濁っている私のサイコパスがさらにちょっと濁った。

「とにかく、打開策を見つけないといけないわね。志恩に聞いてきたけれど、爆笑してただけだったわ」
「あの女……」

分析室から戻ってきた弥生ちゃんも私たちのところにやって来た。
唐之杜さんなら多分そうだろうとは思っていたが、狡噛先輩はムカついたらしく、煙草を握り潰していた。

「…まぁ古典的だけどさぁ、最初入れ替わったときみたいにアタマぶつければいいんじゃない?」
「ああ、その方法はもうやったんだよ。でも駄目だったの」

そうなのだ。よく漫画やアニメであるようにまた狡噛先輩と私の頭をごっつんこしてみたのだが、痛いだけでなにも起こらなかった。

「えー?まじ?どうすんの?」
「だから悩んでるんだよ。…どうしよう」
「逆に考えるんだ、戻れなくなっちゃってもいいさ、と」
「ダメです。狡噛さん現実逃避しないでください」
「逆に考えるんだ、人間をやめちゃってもいいさ、と」
「狡噛さんも名前さんもジョジョ見すぎです」
「今は様子を見るしかないんじゃない?どうにもならないし」
「えー…そんなぁ…」

私がしょんぼりしていると、ちょうど昼休憩の時間になったらしく、弥生ちゃんは分析室にとんぼ返りしてしまった。あとの二人と征陸さんも昼食に行ってしまったらしい。
私と狡噛先輩(中身は逆)も仕方ないと立ち上がり、カフェテリアに向かおうとしたのだが、そこで狡噛先輩(身体は私)が盛大に転けた。

「…大丈夫ですか、狡噛先輩。それ私の身体なんだから気を付けてください」
「…悪いな」

と言ってるそばからまた転けた。
何でだろう。嫌がらせか何かだろうか?そういうことならタイマンはってもいいのよ。

「……あの、狡噛先輩」
「俺はもうダメかもしれない」
「諦めたらそこで試合終了ですよ」
「いや、そういうんじゃなくて」

狡噛先輩(見た目は私)は床に突っ伏したまま、小さく息を吐いた。

「なんかァ、俺もう…いやになってきた……」
「なんでちょっと泣きそうになってるんですか」
「別に泣いてねーよ」
「何で今転けたんですか」
「お前俺がハイヒール履きなれてると思うか?」

ああ、そういえば。
狡噛先輩は慣れないヒールで足をコントロールするのに苦戦しているらしい。

みんなはもうオフィスから出ていってしまって、見た目は狡噛先輩な私と、見た目は私な狡噛先輩が床にしゃがみこんでぐだぐだと話しているだけだった。

「ないわ……まじないわ…」
「すみません、狡噛先輩。今度アイス奢ります!」
「いや、いらん」
「ならジャンプス●エアを宜野座監視官に頼んで買ってきてもらいましょう!」
「それ結局ギノをパシらせてんじゃねえのか。そもそも俺はサ●デー派だ」
「お〜い〜監視官常守朱がジャンプ●クエアで絶賛連載中なの忘れたんですか!」
「そうだった…すまなかったな常守。今常守いないけど。ごめんな常守。単行本一巻の表紙俺でごめんな、常守」
「もう嫌味にしか聞こえないですから。ちなみに私はマー●レットです」
「お前少女漫画とか読むのか」
「ネット購読してます」

話がそれてしまったが、やはり私と狡噛先輩はかつてのヤンキーのようにヤンキー座りでぐだぐだと話すほかなかった。もうやる気とか勇気とか元気とかがどこかへ行ってしまったのだ。

「何か方法を考えましょう!」
「策でもあるのか」
「ひとつだけ……提案があります…」

たっぷり数秒ためると、ごくりと狡噛先輩が喉をならした。
にやりと笑って私は立ち上がる。

「マー●レットで読んだんですけど…」
「…どんだけマー●レット好きなんだよお前は」
「マー●レットは人生のバイブルですから」
「で?」
「キスをしたらいれかわる、的な」
「……」

あれ?スベった?結構私真面目に考えたつもりなんだけどな………?
無言の狡噛先輩に私はどうしていいかわからなくなってしまった。どうしよう。

「いや……それはないわー…」
「えっ!なにマジでドン引きしてるんですか狡噛先輩!」
「まずそもそも俺はお前とキスをしたくない」
「ひどっ!!そこは嘘でもしたいって言ってくださいよ!これ夢小説ですよ?!」
「うるさい世界を壊しかねない発言は控えろ」

狡噛先輩は辛辣に言い放つとがしがしと頭をかいた。これにはさすがに私も責任を感じてしまう。

「私のせいですよね…足引っ掻けちゃったから」
「お前ギノ並みにどんくさいな」
「ちょっとそれどういう意味ですか!謝ってください!私に!」
「その前に俺に謝れ、狡噛」

私たちの会話に割って入ってきたのは宜野座監視官だった。局長への報告が終わって戻ってきたところで、今からお昼らしい。
あちゃー…宜野座監視官にどんくさいは禁句だよ…。

「大丈夫です、宜野座監視官。宜野座監視官は無能ではないです!」
「名前、俺そこまで言ってない」
「…お前また施設にぶちこまれたいのか?」
「ヒイイイイ宜野座監視官それだ
けはお許しをををを!」

私が土下座をすると、俺がギノに土下座してるみたいでみっともないからやめろと狡噛先輩に言われた。
あ、宜野座監視官今思いっきり私の身体の狡噛さんをしばいた。それ私の身体なんですけど!

「ほんとに入れ替わってるな」
「だから言ってるじゃないですか」
「おい、狡噛の姿で俺に敬語を使うな気持ち悪い」
「仕方ないでしょうが!」
「ギノ、何かいい方法はないか」
「名前の姿で俺にため口を使うな腹立つ」
「お前わからず屋か」

宜野座監視官が眼鏡を押し上げた。
やってられんということらしい。

「もう一度頭をぶつければ戻るんじゃないのか」
「それが試したけどダメだったんですよ」

宜野座監視官は小さく舌打ちをすると、自分のデスクに腰かけた。
何か策を考えているようだが彼の頭にいい作戦は思い浮かぶだろうか。

「…ぶつけるって、どんなふうに」
「頭と頭をごつん!って」
「最初入れ替わったときは何処と何処の部分をぶつけたんだ」

あ。
たしかそれは、えーっと。

「こいつの前頭葉と俺の後頭部がぶつかったんだよ」
「その通りに実践したのか?」

いや、してない。
普通に正面切って頭をぶつけた。

「信じたくはないが、仕方ない。…狡噛、やれ」
「…いや、あの私名前です」
「ギノ、俺はこっちだぞ」

明らかに不愉快そうな顔をすると、今度は宜野座監視官は私の身体に向き直った。

私が宜野座監視官の指示通りに、最初頭をぶつけた場所にスタンバイする。
え、待って?私ぶつかられる役?

「いくぞ、名前」
「あんまり痛くしないでくださいね」
「無理だろ…っ!」
「頑張ってください狡噛先輩ならでき────痛ったい!!!」

私がごちゃごちゃ言ってると、宜野座監視官が狡噛先輩(体は私)の背中を思いっきり押したらしく、凄い勢いで後頭部に鈍痛がやって来た。
心なしか宜野座監視官が笑ってるように見えた。気のせいではないと思う。

「いたた……」
「どうだ?戻ったか?」

身体をゆっくりと起こす。まだ頭が痛いけどどうにか意識はあったので頭をおさえて辺りを見回した。

「「…戻ってない」」
「え」














「そういえば名前からの報告書の確認がまだだったな…局長に提出する前に見ておかないと」

翌朝、目がさめると私と狡噛先輩の体は何故か元に戻っていて二人で半泣きのまま出勤しました。
その日一日私はずっと半泣きで弥生ちゃんに慰めてもらっていたけれど、狡噛先輩は一瞬で真顔に戻っていたからすごいなぁと思いました。

「…作文?」




















◎狡噛と名前さんが入れ替わっちゃうギャグ話
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