※ちょっとエグい。





佐々山が死んだ。
殺された。

「まさかこんなすぐに会えるとは思ってなかったよ」

目の前の白い男は、私に微笑みかける。あと一歩でこの男を捕まえられたのに。この男を、殺してやれたのに。

私が所持していたドミネーターは彼の足元で沈黙を貫いていた。手足を拘束され壁にもたれている私にはそれに触れられない。

ここはどこだろう。真っ白な壁とフローリング、男の向こう側に見えるドア以外は何もない。窓もないから外も見えない。今は一体何時なのか。
私も生きたまま解体されてプラスティネーションのように固められて、標本みたいにして殺されちゃうのかな。それはちょっと嫌だなと思った。痛いの、嫌いだし。

「僕の名前は槙島聖護。こうして言葉をかわすのは初めてだね、名前」
「なんで…私の名前…」
「いつも見ていたから。…余裕だね、怖くないの?」

目の前の男───槙島は私の前にしゃがみこむと、私のスーツのジャケットのボタンに触れた。髪や肌と同様に白い指先が、ぷつりぷつりとボタンを外す。私は悲鳴もあげずに黙ってされるがままになっていた。

「…今からバラバラにされるかもしれないし、僕に強姦されるかもしれないよ。怖くないの?」

もう一度、槙島は愉快そうに怖くないの?と問いかける。私は肯定も否定もしなかった。その間にも、彼の指は私のジャケットのボタンを外し、今度はシャツの方へとのびていく。
この人はもしかしたらすごくマニアックな性癖をお持ちなのかもしれない。拘束マニアとか、強姦マニアとか、或いは死姦マニアとか。
いくら顔が整っているイケメンといえども、前述の三つは丁重にお断りしたい。というか死にたくない。そもそも何されるかわからないのに何故こんなにも私は冷静なのか。人間は窮地に陥るとパニックを通り越して逆に冷静になるのかもしれない。…だとしたら今の私はかなりの窮地に立たされているんじゃないだろうか。

「…怖い、です」

猿轡をされていないのは恐らく話をさせるためなのだろう。私は正直な気持ちを述べてみた。潜在犯として生きてきたとはいえ、私はあまり自分の人生に不満はない。執行官の仕事に就けて良かったとすら本気で思っている。だからこそ、もう少し生きてみたいのだ。

「殺す…んですか…」

シャツのボタンを片手で器用に外し続ける彼の指を眺めていると、鼻で笑われた。

「まだ殺さない」
「…えっと」
「大丈夫、女性を無理矢理抱く趣味もない」

なら、何故私をひっ捕まえてこんなことしているんだろう。会話は成り立つけど、やってることがちんぷんかんぷんだ。私のシャツのボタンを全て外すと前がだらんとあいてしまった。ピンクのキャミソールを凝視する白い男に、私は黙りこむ。やっぱりこの人、変態っぽい。

「一目惚れって信じるかい?」
「は」
「僕は君を見たあの日から、君に心を奪われてしまったみたいなんだ。一度目は政治家の死体を君達が現場で調査していたとき、死体を見る君の目がとても妖艶で、夜の闇と死体の血液の中で君の白い肌が浮き上がるように映えてね…二度目はあの君のお仲間の執行官が哀れな姿で発見されたとき。ああ…綺麗だ」

嬉々として語る槙島の目には紛れもない愉悦の色が浮かんでいた。こいつが、一連の標本事件の犯人で間違いないらしい。やっぱりイケメンでも頭イカれてる人間は御免だ。
彼は懐から取り出した大型の剃刀を私の胸元に向けた。殺さないってさっき言ったのに、やっぱり殺すことになったのだろうか。佐々山はこいつのせいで死んだかもしれないのに、私の腹にふつふつとわき出るはずの怒りは意気消沈といった風だ。
当然だ。今すべきことは死んだ人間を悼むよりも、生きている自分の命をどうやって延命させるかに重要性、というか重きが置かれる。

「綺麗な肌だね」

恍惚とした表情の槙島は私のキャミソールの胸元に剃刀を引っ掛けて、足元目掛けてゆっくりと刃を垂直に下ろした。
ぴりぴりと布が破れる音がして、お気に入りだったピンク色のキャミソールは無惨な布切れとなって私の胸元にだらりと垂れていた。
いよいよブラまでまる見えになってしまった私の上半身を舐めるように見つめる目の前の男に、僅かな羞恥と依然とした恐怖をおぼえて熱い顔を少し背けた。
この男が何をしたいのかさっぱりわからない。わかりたくもないけど。

「あの…」

ここからどうするつもりなのだろう。さっき槙島は性行為はしないと宣言なさったけど、この流れだと完全にそういうことに至るんじゃないの。
どうしよう。抵抗した方が萎えてくれるだろうか。いろいろと戦略を考えていると、彼が顔を私の胸元に埋めた。自慢じゃないが、それなりのサイズの私の胸元に顔を押さえつける。

「…心臓の音がする」

やっぱり変な性癖の人だったらしい。
切りつけられるのも怖いのでじっとしていると、彼の手が私の背中に回り、ロープを切って縛られていた私の手首を解放したのだ。これにはさすがに驚いた。どうしたらいいかわからずに、そのままだらんと手を床につく。彼はまだ私の胸元に顔を埋めていた。抵抗したら殺されそうなので、彼の頭をそっと撫でてみる。すると槙島は少し驚いたような顔をして私を見上げた。

「こうしてほしかったんですか」
「…よくわかったね」
「まぁ、一応」
「素肌を通して感じる心拍は…心地いい」

良かった、どうやら成功らしい。彼の頭をそのまま撫でていると、今度は起き上がってそのまま私の足を縛っていたロープも切ってくれた。おお、おお、いい感じじゃない。ドミネーターは相変わらず届かない距離にあるけど、この様子だとどうにかなりそうだ。
彼が手に持っていた大型の剃刀をドミネーターの方へ放り投げると、それはくるくると回転してフローリングの上を滑る。ドミネーターの銃口に当たってそれは動きを止めた。

「槙島…さん?」
「ねえ名前、僕は君が好きだよ。好きで好きでたまらないんだ。この心臓の音も、綺麗な肌も、世間には他人事な態度も、この世の憂いを全て閉じ込めたような瞳も」
「…」
「僕のものになって。僕なら君をもっと悦ばせてあげる」

そう言うと槙島聖護は私の背中に腕をまわして私を抱き締めた。彼の高くない体温と、緊張と困惑と羞恥と恐怖で上昇した私の体温とが触れ合って溶けるように熱を共有する。

「頭、おかしい」
「知ってる」

彼の指先が私の最後の砦に触れるまで、あと5秒。





























◎衝動的に書いた話。槙島さんは一枚一枚服を剥いだりするの好きそうだなぁって

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