───あなたに見合うようになりたい。
ナマエは7つ上のリヴァイを思い浮かべる。彼は現在30歳で見た目は小柄でありながら切れ長の瞳、落ち着いた雰囲気、その全てが大人の魅力を感じさせた。そんなリヴァイに見合うようになりたいとナマエは大人っぽい格好をするようになった。
「…リヴァイさん、喜んでくれるかな」
なんてことを思いながら、先日友人と一緒に選んだ香水を手首に付けて擦り合わせた。そこからは以前好んで付けていた甘い香りではなく、スッキリとしたシトラス系の香りがする。
服装もカジュアルガーリー系統だったのを大人っぽいリヴァイに合わせるようにモノトーンの色味を選び、ヒールが高い靴も履いた。やはり慣れないもので歩きにくさはあるがこれで少しは大人に近付けただろうかと満足気に笑みを零した。
「ナマエ」
「…!」
聞き慣れた声がし、顔を上げるといつものように大人な格好をしたリヴァイが。ナマエの表情はパッと花が咲いたように笑顔になり、彼に駆け寄った。
「リヴァイさん!」
「待たせたか」
「ううん、大丈夫」
そう答えればリヴァイは少しだけ表情を緩ませてそうか、と短く返事をする。ナマエは服装について何か感想を述べてくれるかと今か今かと待つが、それ以上何も言わずそっとナマエの手を取って歩き出した。
「…え、リヴァイさん?」
「どうした」
「……いや、何も」
「…?」
がらりと変わった見た目を見て、一言くらい何かを言ってくれるだろうと期待をしていたがそれを裏切られナマエの心はズンと重くなる。勝手に期待したのは自分だが、これも大人なリヴァイに見合うようになりたくて必死なのに、と。
「今日は買い物だったか」
「あ…うん。新しく出来たショッピングモールに」
彼女の心を知ってか知らずか、リヴァイは特に服装等に触れる気配はない。友達と一緒に選んだ香水も、大人っぽい服装も、高いヒールも全て無駄なのではとナマエは複雑な心境だ。せっかくのデートなのに初っ端からこれでは楽しめないとぐるぐる思考を巡らせていると───
「で、どうして今日はそんな格好なんだ」
「…!」
リヴァイの口から出た言葉にナマエは勢い良く顔を上げた。
「……リヴァイさんに、釣り合いたくて」
「俺に?」
「だってリヴァイさんはいつもかっこよくて、大人っぽくて……それに比べてわたしは、子どもっぽいから」
「だから、香水も変えて、服装も変えて、慣れねぇヒールの高ぇ靴履いてんのか」
「り、リヴァイさん、全部気付いてくれて…?」
「気付くに決まってるだろ」
歩いていた足を止め、リヴァイが手を繋いでいない方の手でナマエの髪をさらりと撫でる。それがとても心地好い。
「今の格好も、悪くねぇ。だが俺はそのままのナマエが一番好きだ」
「!」
「釣り合うとか、そういう話じゃねぇよ」
その言葉にナマエはハッとする。大人なリヴァイに釣り合いたくて努力をしていたつもりだったが、ただ空回りしているだけだと。そのままがいいと告げてくれた彼を否定する行動だったのではないかと。
「…ごめん」
「何故謝る」
「そうだよね……リヴァイさん、ありがとう」
お礼の言葉を告げれば再度リヴァイの手のひらが髪の毛を撫でる。心做しか少しだけ彼が笑っているように見えた。それが嬉しくてナマエは繋いでいた手をグイッと引いて歩き出す。
「リヴァイさん、行こ」
「そう急かすな」
なんて言いながらもリヴァイも足取り軽く、目的地へと向かった。
2021 0102
実咲様へ
この度は企画にご参加頂きありがとうございました!甘い…と言うよりはほのぼの多めになってしまいましたが、作品を贈らせて頂きます。
mae tugi 6 / 8