こんなベタな展開があるだろうか。
調査兵団、リヴァイ班に所属するナマエは上司であり恋人であるリヴァイから倉庫の掃除をするよう命令されていた。同じ班のペトラ、オルオ、エルド、グンタにもそれぞれ違う場所の掃除が命令されている。倉庫内を隈無く掃除し一段落ついた頃、リヴァイがやって来て確認をしてもらう。潔癖症で有名な彼のOKが出て二人で部屋を出ようとドアノブを捻って気付いた。
「あ……れ……?」
「どうした」
何度ドアノブを捻っても金属と木製の扉が擦れる無機質な音しか響かない。鍵は開いているのにドアノブを押しても引いても、何をしてもビクとも動かないのだ。
「ひ、開きません……」
「……代われ」
ナマエに代わってリヴァイがドアノブを捻るも、先程と変わらずそのずっしりとした木製の扉が開くことはなかった。
「チッ……一体どうなってやがる」
「いきなり開かなくなるなんて……」
予想外過ぎるベタな展開に二人は戸惑った。ナマエは一体どうしたものかとこの状況に焦りを感じた。リヴァイと二人きりになることには慣れているが今は仕事中である。お互いに仕事に私情は持ち込まない為、心がソワソワして落ち着かない。そんな彼女とは対称的にリヴァイはこういう場合でも取り乱さず落ち着いている。
「ど、どうしましょう……このまま鍵が開かなかったら」
「それはねぇだろ。古びた扉だ、蹴破ってしまえばいい」
「でもここの鍵はついこの前取り替えたばかりだと団長が……」
「クソ……タイミング悪ぃな」
数日前、随分古い鍵の建付けが悪くなった為、取り替えたばかりだった。決して金銭面に余裕がある訳ではない調査兵団。鍵の交換に掛かる費用も高くはないが安くもない。それを無駄にするのは気が引けた。
「リヴァイ兵長?」
「誰かが来るまで待つしかねぇな。いつになるかはわからねぇが……外側からなら開く可能性もあるだろう」
内側から開けることを諦めたリヴァイは扉のすぐ近くに埃が落ちていないか確認をしてから腰を下ろす。こんな時でさえ潔癖症の彼らしい行動に少し焦りが落ち着いたナマエ。
「こっち、来いよ」
「はい」
とんとん、と指で示された彼の隣にナマエも腰を下ろした。ぴったりと肩が触れ合う距離の近さに恋人とはいえ少しだけ恥ずかしくなり、下を向く。するとすぐにリヴァイの優しい声音が名前を呼んだ。
「ナマエ」
「は、はい……」
「何だ、緊張でもしてんのか?」
「いや、その、緊張はしてないですけど……こんなベタな展開で二人きりになるのって何だか恥ずかしいなって?」
リヴァイの方へ顔を向けると彼はどこか楽しそうな表情をしていた。と言っても普段の無表情とそこまで大差はないのだが。
「……そういえば、仕事中に二人きりになるのって初めてですよね」
「そういやそうか」
「いつもならペトラとオルオが痴話喧嘩したり、ハンジ分隊長が茶々入れにきたり、何かと騒がしいですからね」
ふと、班員や分隊長の姿を思い出して自然と笑みが零れた。ナマエの表情が柔らかくなったことにリヴァイも安心したようで彼女の肩をそっと抱いてやる。
「え…?」
こんな展開になっていると言えど今は仕事中。それなのに肩に置かれた大きな手が暖かくて優しくて、仕事中だと言うことを忘れてしまいそうになる。
「へ、兵長……今は仕事中……」
「休憩だ」
「ん…!」
肩に置かれた手がするりと後頭部を捕らえ、そのまま引き寄せられる。そうすることで重なった唇はほんの2秒程だったがお互いの唇にじんわりと熱を残す。それがとても恥ずかしくてナマエは視線をいろんな方向へさ迷わせた。
「……し、仕事中なのに…」
「仕事仕事って逃げんじゃねぇ」
「で、でも……いつもは、こんなこと…ッ」
「いつも、ならな」
だが、とリヴァイは続けた。
「今は特別だ」
そうして、2度目のキス。2度目のそれは唇を何度も食まれたり吸われたりと長いキスだった。唇が離れる頃にはお互いの唾液で唇が艶を出していて、いやらしい。
「……何だか、悪いことをしてるみたいです」
「そうかもしれねぇな」
「…もっとしたいって思うのはダメですか?」
「ダメじゃねぇ。俺が許す」
いつもならこんなことはしない。今だけ『特別』な時間をリヴァイとナマエは心ゆくまで堪能した。その後いつまで経っても戻って来ない二人を探しに来たペトラたちによって密室になった倉庫から助け出されることになった。
2021 0206
ゆいな様へ
この度は企画にご参加くださりありがとうございました!作品アップが遅くなり申し訳ございません。
少しリクエスト内容とずれてしまいましたが、気に入って頂けると幸いです。
mae tugi 2 / 8