珍しく兵士が利用する食堂で昼食を摂ったリヴァイが仕事に戻るべく廊下を歩いていた時。
「かれこれ1週間も出せてねーの!」
「仕事もきついし溜まる一方だよなぁ」
少し先に廊下で立ち話をする若い兵士がいた。話を盗み聞きするつもりはなかったが話の内容の割に大きな声で話すものだから自然と耳に入ってきてしまう。
「(昼間からうるせぇな…)」
苛立ちを感じながらも歩みを止めない。若い兵士は話に夢中になり近付いてくるリヴァイに気付いていない様子。更に話は盛り上がった。
「もしさ、兵団の女で一人だけ抱けるとしたらお前は誰を選ぶ?」
「は?何だよその質問」
「いいじゃねぇか。妄想くらい許されなきゃやってらんねーよ」
「まぁそうだけどさ。えー、兵団内の女だろ?そうだな……」
若い男ならではの話題に口元を緩めつつ考える。リヴァイはさっさと側を通り過ぎようと足を速めたその時───
「ナマエさんとかどう?」
「あー、ナマエさん。なかなかいい線じゃん」
ナマエ、という名前に反応したリヴァイは歩みを止めてその場に立ち止まる。それでも兵士は彼の存在など知ることもなく話を続けた。
「顔良し身体も良さそうだし、調査兵内なら一度は抱いてみたい女だよなぁ」
「っていうか、ナマエさんくらいの女ならちょっと口説けば簡単に抱けそうじゃね?」
「確かに。かわいい顔して流されやすそうだし今度誘ってみるかな」
「酒でも飲ませて酔わせたところ狙ったら余裕かもな!顔と身体のラインが超好みだし一回でいいからヤッてみて〜!」
わはは、と大きな声で笑う兵士にリヴァイはついに我慢が出来なくなった。ナマエは自分の女だ、と独占欲、嫉妬心、彼らへの憎悪などいろいろな感情が噴き出して止まらない。奥歯を噛み締め真っ直ぐに兵士らの元へ進んだ。
「言いたいことはそれだけか?」
「「!?」」
地を這うような低い声が響き、兵士らは大きく肩を跳ねさせた。恐る恐る声のした方向へ振り返るとそこには巨人をも怯ませることが出来そうな目付きをしたリヴァイが立っていた。
「り、リヴァイ兵長…!?」
「ひッ!?」
リヴァイは青い顔をしている一人の兵士、先程ナマエのことを簡単に抱けそうと言ってのけた男の胸ぐらを容赦なく掴み上げた。掴まれた男は全身を震わせ、だらだら汗を流しながら命乞いにも近い言葉を並べる。
「へ、兵長ッ!やめてください!お願いです!お願いですから…!!」
「人の女をテメェらのくだらねぇ妄想に使って楽しいか?」
「ひッ……も、申し訳ございません、申し訳ございません!兵長…!」
「あ?謝って済む問題か?今、俺は最高に気分が悪い」
「も、申し訳ございません!ナマエさんが兵長の彼女だとは知らなくてッ…!」
「知らなかったからいいのか?そんな幼稚な言い訳が通用すると思うな、グズ野郎」
「ッ……申し訳ございません申し訳ございません!今後はそのようなこと絶対に致しません!」
「当たり前だ。ナマエは誰のものか、その空っぽの脳みそによく叩きこんでおけ」
「はい、はいぃ…!了解しました!兵長申し訳ございません!!」
「クソつまんねぇことする暇あるなら訓練に打ち込め。だから最近の奴はすぐ巨人に喰われるんだよ」
「は、はい…!申し訳ございません!」
自分が言っていることは正しくもあり、理不尽でもあると理解しながら一度湧き出た感情はそう簡単には治まらない。まだまだ言いたいことはあったがこれ以上はやめておこうと僅かな理性がリヴァイを引き留めた。
「くッ、はぁ……はぁ……」
掴んでいた手を離すと兵士は糸が切れたようにその場に座り込んだ。全身に汗をかき大きく呼吸を繰り返している。もう一人の兵士も恐怖からガチガチと歯を鳴らして震えていた。リヴァイは最後に二度と同じことはするな、と釘を刺すように睨み付けるとそのまま横を通り過ぎた。
「(……クソ、気分が悪ぃ)」
昔から感情はあまり出さないように生きてきた。けれど大切な人が絡むとなると話は別だ。ナマエの裸を自分ではない他の男が想像していたという事実だけで吐き気がする。どうにかして気持ちを落ち着かせようと仕事を一旦投げ出して部屋の戸棚に隠してある最高級の茶葉で紅茶でも淹れようかと考えた。しかし一人では味気ない。ナマエとその紅茶を飲みたい、そう決めて彼女を捜そうと思っていたがその手間はすぐに省けることになる。
「リヴァイさん!」
鈴の音のような声が背後からリヴァイを呼ぶ。その声に引かれるように振り向くとふんわり髪を揺らしながら駆けてくるナマエの姿が。
「ナマエ」
「リヴァイさん、少しお話がッ……!?」
ナマエの言葉を遮って廊下だというのに彼女の華奢な身体を包み込むように抱き締めた。突然のことにナマエは戸惑うが、リヴァイは求めていた温もりが今自分の手の中にあることに安堵し、溜め息をつく。
「リヴァイさん?お疲れですか?」
「……いや、」
「?」
ぽんぽん、と子どもをあやすように背中を優しく叩けばリヴァイは腕の力を強めた。
「リヴァイさん、どうかしたんですか?」
「どうもしねぇが……」
「が?」
「今無性にお前を抱きてぇ」
「は!?」
ボソ、と耳元で普段の声よりワントーン低く伝えられた事実にナマエは驚いて顔を真っ赤に染める。急激に身体の熱が上がったのは抱き締められているからだけではない。
「悪いが付き合え」
「え?え?」
腕を解いてナマエを自由にさせたのも束の間、手を握って半ば強引に歩き出す。彼女もリヴァイの意図が理解出来ないでいるも引かれては同じように歩き出すしかない。
「リヴァイさん?お、お仕事は……」
「んなもん後でどうにでも出来る。そうだな……1時間あれば3回は軽い」
「さ、3回!?え、待って、リヴァイさん!お仕事もあるしまだお昼なんですが!」
プチパニックに陥っているナマエがかわいい、なんて考えながら向かうはもちろん自室。先程までは一緒に紅茶を飲めたらそれでいいと思っていたのに彼女の姿を見てしまったが最後、どうしようもなくめちゃくちゃに抱きたいという思いが先走ったのだ。これもきっと勝手にナマエの裸を想像していた兵士らのせいだ、と無茶苦茶な責任転嫁をした。
そうして、昼間からめちゃくちゃに抱かれてしまったナマエ。1時間で3回、なんてもので収まることはなく2時間に渡って抱き潰されたのだ。
「(……ナマエ)」
抱き潰されたナマエはすやすやと寝息を立てている。そんな彼女の頬を指でさらりと撫でてやる。そして眠っているのをいいことにリヴァイは鎖骨、胸、太ももに吸い付いて鮮やかな花を追加した。
2021 0125
mae tugi 48 / 60