進撃 | ナノ


ぴちゃん、と水滴が落ちる音が響く。ナマエは湯浴みを終えてタオルで髪の毛や身体を拭きながら思う。

「(……汚い身体、)」

ナマエは過酷な訓練兵団を16歳の時に上々の成績で卒業し、その後更に過酷な調査兵団に入団。幾度と壁外調査の死線を掻い潜ってきた実力者だ。けれどその証として身体には多くの生傷。兵士としては優秀でも女性としては自信を持てずにいた。

「(幻滅、されちゃうなぁ)」

痛々しい傷跡を人差し指でツツッとなぞる。小さな傷跡ならまだいいがナマエの胸元には一本の長く深い傷跡が堂々と残っていた。それは3年程前、初めての壁外調査で出来た傷。幸いにも内臓は無事で皮膚と肉が抉れただけで済んだのだが3年経っても消えることなく身体に刻まれたまま。それが原因で恋愛には消極的だった。はぁ、と溜息をついた瞬間───

「…!」
「おい、いつまで待たせるつもりだ」
「リヴァイ兵長…」

ラフな格好をしたリヴァイが不機嫌そうに扉を開けたのだ。ナマエは慌ててバスタオルを身体に巻いた。傷は多分見られていない、扉に背を向けていて良かったと少しだけ安堵した。

「すみません…」
「来い」
「あっ…!」

グイッと手を引かれてそのままベッドに軽く突き飛ばされる。視線を上げれば不機嫌なような何か期待しているような、そんな表情のリヴァイと目が合った。

「…俺は随分待った」
「ッ…」
「今日はもう待ってやれねぇ」
「ン…!」

突然重なった唇に驚きながらもそれを受け入れた。他でもない彼らは恋人同士なのだから。付き合うきっかけに至ったのは半年程前、リヴァイからの猛アプローチ。想像がしにくいが事実である。

「ン、は……っ」

ちゅく、と水音が響きナマエは羞恥心からバスタオルを握る手の力を更に込める。リヴァイの手がバスタオルに掛かり、身体を思わず硬直させた。

「ん、んーーー!?」

未だに唇は塞がれたまま。ナマエは抵抗してみせ、リヴァイも掛けた手に力を入れ続け離そうとしない。ナマエは顔を横に振り唇を離した。

「り、リヴァイ兵長、そこは…!」
「あ?」
「そこは………あまり綺麗では…」
「だから何だ」
「…だから、見てほしくな…ッ」
「これをか?」
「あ…?!」

一瞬。一瞬の隙にリヴァイはバスタオルを剥ぎ取ってしまったのだ。ナマエが必死に片手で胸元を隠しもう片手で取られたバスタオルを取り返そうと手を伸ばすも、それは遠くへと放り投げられた。

「その見てほしくねぇモンはこの下か」
「ッ……」
「見せてみろ」
「………」
「ナマエ」
「……リヴァイ、兵長…」

結局、どう足掻いても男の力には適わず両手首を掴まれて広げられる。そうされることで薄暗い室内でも胸に残る深い傷跡がはっきりと見て取れた。

「い、や……見ないで…ッ」
「ナマエ」
「汚いんです……幻滅しないで…!」
「ナマエ」
「…!」

両手を拘束されて尚、涙を瞳に溜めてイヤイヤと駄々をこねる子どものように顔を振る。そんなナマエを諭すようにリヴァイは何度も名前を呼んだ。その心地良い声音がナマエを我に返らせる。

「汚くなんかねぇ。これは巨人と戦う証だ」
「で、でも……」
「チッ……これを見ろ」
「え…?」

舌を打ったリヴァイは己のシャツに手を掛けてその引き締まった上半身を露わにさせた。そこには小さな傷から大きな傷跡があり、彼もまた彼自身が言う巨人と戦う証をいくつも身体に刻んでいた。

「俺もこの通りだ」
「………」
「同じなんだから何も恥じることはない」
「リヴァイ兵長……」

リヴァイはそっとナマエを抱き締めて胸と傷と傷を合わせた。彼の言葉はナマエの耳を温め、心にじわりと溶ける。今まで胸の傷が気掛かりで恋愛をすることを恐れていた。リヴァイと付き合ってからも身体を重ねる日がいつか来るのかと思うと本当に怖かった。けれどリヴァイはナマエの気持ち、傷共に丸ごと受け止めて受け入れた。それが彼女にとってどれだけ救いか。

「リヴァイ兵長…」
「………」
「ありがとうございます…」
「礼を言われるようなことはしてねぇが」
「それでも、ありがとうございます」

ナマエはぽろりと涙を零して、リヴァイの肩に顔を埋めた。この先何があってもこの人に着いて行きたいと願いを込めて。
リヴァイは欲に何度も負けそうになったが、少しだけ今はこうしていたいと抱き締める腕を更に強くした。


2020 1225
兵長ハッピーバースデー!


mae tugi 47 / 60

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