「…以上で報告会議を終了する」
エルヴィンの声と共に会議が終了。今回の会議は団長を筆頭にリヴァイやハンジ、ミケなど上官クラスの兵士のみで行われた。ハンジは早速椅子から立ち上がり長時間同じ体勢でいた身体をほぐすように肩を回したり伸びをしたりとしている。そんな彼を横目にリヴァイは資料をとんとん、と纏めると立ち上がった。
「リヴァイ、食堂行かない?」
「…一人で行け」
「えー!つれないなぁ」
ハンジの誘いを一言で断ると後ろで文句を言う彼を見ることもなくリヴァイは部屋を後にした。一旦自室へ入り資料をきちんと片付けてから部屋を出て宛もなく歩き出す。ふらりと気付いた時には外へ出ていた。
「(チッ……眩しいな)」
時刻はまだ12時を回った頃。太陽は容赦なく日差しを放っている。眩しさにキレ長い瞳を更に細めるとその先に顔見知りの兵士らがいることに気付く。
「…ナマエ、と104期のガキか」
ベンチに腰掛けながら楽しそうに話をしているのはリヴァイ班の一員であるナマエと新兵らだった。ナマエ、ミカサ、クリスタ、サシャ、ユミルと女性のみで盛り上がっていて向こうはこちらには気付いていない。リヴァイは別に声を掛ける程のことでもないと来た道を辿ろうと踵を返しかけた時、聞いたことのある声が響いて足を止めた。
「おーーーい、ミカサ!」
「エレン!」
偶然か、ミカサらを見つけた同期であるエレン、アルミン、ジャン、コニーが歩み寄って行く。ミカサは彼が来たことが嬉しいのか表情が少しだけ柔らかくなった。
「ナマエさんも一緒だったんですね」
「エレン、それにみんなも。どうしたの?」
「そろそろ腹減ってきたところで…」
「ミカサたちを食堂に誘いに来たんです」
「あ、良かったらナマエさんもどうですか?」
「え、いいの?」
後輩に誘われたナマエは笑顔を浮かべて答えた。それを見ていたリヴァイは自然と眉間に力が入るのがわかった。
「ナマエさんと飯一緒に出来るなんて早々ないですからね〜」
「確かにそうね。やっぱり時間がなかなか合わないからかな」
「いや、そうじゃねぇと思うけど」
「ユミル?」
「とりあえず食堂に向かおうぜ!」
ユミルの渋い顔にはあまり触れられず、ベンチから立ち上がり食堂へ向かうべく歩き出した。あまり先輩兵士と食事を摂る機会がないからか104期生らは嬉しそうだ。ナマエの背後に立ったエレンは彼女の背中をグイグイ押した。
「ちょっとエレンってば。そんなに押さなくても歩けるから!」
「いいじゃないですか!」
「エレン、困ってるから止めた方がいい」
「ミカサ……もう手遅れだぜ」
「え?」
「おい、ガキ共」
「!?」
楽しげな雰囲気を一瞬にして消し去る、地を這うような低い声が響きエレンらはその場で思わず固まってしまう。
「リヴァイ兵長!」
「ナマエ、部屋に来い。仕事だ」
「了解です。そういうことだから、誘ってくれたけどごめんね」
ナマエは両手を合わせて申し訳なさそうに謝るとさっさと先を歩くリヴァイの後を追った。その場に残された104期生らはただぽかんと小さくなる2人の姿を見つめた。
「…ユミル、わかってたの?」
「あれだけ殺気放ってりゃわかるだろ」
「殺気…」
「あーあ。せっかくナマエさんと飯一緒に出来るチャンスだったのによ」
「だよなー」
「(命知らずだな、エレンもジャンも)」
無言のまま、一定の距離を保って辿り着いたリヴァイの執務室。入室が許されたそこはシンプルで綺麗に片付けられた空間だった。パタンと扉が閉まった後もリヴァイは黙っていたのでナマエから沈黙を破った。
「兵長?」
「…何だ」
「えっと…あの、仕事は?」
「ああ…そんなこと言ったか」
「…?」
怒っているような素っ気ないような、普段と様子が違うリヴァイに戸惑いを隠せない。
「それより…」
「?」
「ガキに誘われて嬉しそうにしてたな」
「え…」
ようやくリヴァイの瞳がナマエを捕らえたというのに出て来た言葉に理解が追い付かない。ナマエはただ狼狽える。
「だって、わたしにとって大切な後輩ですから」
「は…大切か」
「きゃ…!?」
グイッとナマエを壁に押し付ける。不安に塗れた彼女の表情を見てなんとも言えない感情がリヴァイの中で渦巻いた。
「じゃあお前にとって、俺はなんだ」
「は…?」
「答えろ」
鋭い瞳が不安な瞳を捕らえて離さない。
「……」
「早く言え」
「……」
「……」
「…何より大切で大好きですよ。ヤキモチ焼きな兵長のこと」
ナマエは顔を真っ赤に染めて言う。上司と部下の関係でありながら恋人でもある2人を兵団内では一部を除いて知らない兵士が多い。だからこそリヴァイは定期的に気持ちを確かめたがるのだ。
「そうだ、それでいい」
「……」
「ガキに誘われたぐらいで浮かれるんじゃねぇ」
「う、浮かれてませんよ…」
血も涙もない冷徹な人物だと思われがちなリヴァイの知られざる一面。ナマエもまたそんな彼が愛おしくて堪らない。
「ナマエを独占するのは俺だけだ」
そう言って、独占欲たっぷりなキスを送った。
2020 0925
mae tugi 46 / 60