進撃 | ナノ


「リヴァイ兵長、頼まれていた資料です」
「ああ、助かる」

調査兵団兵士長を務めるリヴァイと、兵士長補佐を務めるナマエはテキパキと無駄なく仕事を進めている。机には大量の書類、それを椅子に座って1枚ずつサインを書いていくリヴァイ、ナマエはサイン済みの書類を纏める傍らで次の会議に必要な資料を分けている。そんな様子をソファーに腰掛けながら見つめる人物が一人。

「ねぇ、2人って付き合ってるのにいつもそんななの?もっとイチャイチャしないの?」
「テメェはだらけてねぇで仕事しろ」
「私には変わらず辛辣だなぁ」
「無駄口を叩く暇があるなら昨日締切の書類を提出したらどうだ」

ヘラヘラ笑っていたハンジだったが、まだ提出出来ていない書類のことを指摘されてバツが悪そうに頭を掻いた。

「あ〜あれね、あと1日期限延ばしてくれない?」
「駄目だ」
「えー!私とリヴァイのよしみでしょ!?」
「俺はそんなつもりはねぇな」
「酷くない!?ねぇナマエ!」
「あはは……でも書類の期限は守らないとですよ」
「ナマエまで!?」
「当たり前だろうが」

巨人の研究に関しては兵団内、いや人類の中で最も熱い情熱を持っていると言っても過言ではないハンジだが彼は整理整頓や書類仕事はてんでダメだった。書類の期限を延ばしてもらうよう懇願したハンジだったがあえなく却下され、項垂れた。

「仕方ないなー。書類苦手なんだけどやるしかないかぁ」
「ハンジさん、頑張ってくださいね」
「ナマエはリヴァイと違っていい子だね」
「あぁ?」
「やっば、逃げろ逃げろ〜」

そう言うとハンジはリヴァイの眉間のシワが濃くなったことを察知し、逃げるように部屋を出て行った。部屋に残った彼らは何事もなかったかのように仕事の続きをする。しばらく無言の時間が続いた後纏めた書類をファイリングし終えたナマエがリヴァイに言葉を投げ掛けた。

「リヴァイ兵長、わたしたちってそんなに恋人っぽくないんですかね?」
「…急にどうした」
「いえ、ふと思っただけで。すみません」

ナマエは困ったような表情をして笑うとまた仕事に戻った。リヴァイとナマエは恋仲にあるが元々の性格のせいかその関係もさっぱりしたものだった。リヴァイも甘えるタイプではないしナマエも滅多に甘えてくることはなかった。だからと言ってお互いに愛情がないわけではないが依存しないよう上手く一定間隔を保っているだけ。端から見ると冷たいように見られてしまうかも知れないが愛情がきちんとあるからこそ依存や公私混同はせず信頼を寄せているのだ。

「(…ハンジに言われたこと、気にしてんのか)」

黙々と仕事をこなすナマエのを見ながらハンジに言われたことを思い出す。そう言われれば104期生のフランツとハンナのようにところ構わずベタベタしたりしないし、出掛ける時も恋人らしいことはあまりしないかも知れない。けれどお互いがその距離感で満足しているのならいいと考えた。

「(いや、そう思ってるのは俺だけかもな)」

もしかしたらナマエはそうじゃないかも知れないとリヴァイは思う。さっぱりした性格のリヴァイに合わせているだけかも知れないと今初めて思ったのだ。けれどベタベタするのは性には合わないし相手も甘えて来ない。していた仕事の手も止まる程考え込んでいると目の前に上体を少し屈ませて目線を合わせようとするナマエが。

「兵長、そんなにじーっと見られるとやりにくいんですが…」
「あぁ…悪い」
「どうかしました?」
「いや、少し考え事をしていた」
「疲れてる証拠ですよ、兵長は頑張りすぎるから。あと1時間程で昼食ですけど小休止しましょう」

ナマエに言われる程考え込んでしまっていたのだと思い知らされたが、内容は言いにくいと口を噤む。公私混同はしないと言ったが確かに今2人きりなのにそれっぽいムードの欠片もない。ハンジが言うのはそういうところなんだろうか───そんなことを思っているとするりと手のひらから持っていたペンを抜き取られそれを目で追いかけた。

「おい」
「少しだけですから」
「…少しだけだからな」

リヴァイから取り上げたペンを机の端っこに置いていたずらっ子のように笑うナマエ。その笑顔を見てはリヴァイもダメだとは言えず何だかんだ彼女に甘いのだと思い知った。ふ、と小さく溜息をつくとナマエがいつの間にかリヴァイの隣にもう一つ椅子を持って来て並べ、座った。

「ナマエ…」

名前を呼ぶと同時にナマエの手がするっと伸びてきてリヴァイの手と繋がった。そして肩に頭を乗せて寄り掛かる態勢になり、リヴァイはすぐに気が付いた。滅多に甘えて来ないナマエが今自分に甘えているのだと。

「どうした?」
「…好きだなぁって思ったんです」
「急だな」

と言いつつリヴァイの声のトーンはいつもよりも柔らかく、優しい。それが心地好いのかナマエは乗せている頭を擦り寄せてぐりぐりと彼の逞しい肩に押し付けた。

「俺はてっきりハンジに言われたことを気にしてんのかと思ったが」
「うーん……ちょっとだけ気にしてたかも知れないです」
「ならそれを素直に言えばいいだろ。じゃないと俺は気づいてやれねぇ」
「わたしもずっとくっついていたいとか、そんなんじゃないんです。お互いの性格的にそうでしょ?」

態勢は変わらないまま、ただ時が流れていく。ナマエは繋いだ手にぎゅっと力を込めた。

「でもたまには、甘えたいって思うんですよ」

少し恥ずかしそうに言ったナマエはふわっと柔らかく微笑んだ。斜め上から見るその笑顔の破壊力は抜群でリヴァイも珍しく照れたのか気付かれないよう空いている方の手のひらで口元を覆った。

「…公私混同になっちゃいますか?」
「今は休憩中なんだろ」
「ふふ、そうでしたね」
「…クソ」
「?」
「今日は寝かせねぇからな」
「えっ、何でそうなるんですか!?」
「ナマエが悪い」
「えぇー?!」


2020 0802


mae tugi 38 / 60

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